Q4-10 (Pixiv Fanbox)
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待合室は明るく清潔感があった。しかしどことなく、待っている人々はしきりにもぞもぞと体を動かしていやに妖しい雰囲気を漂わせている。
水月医院という場所だった。表向きはなんの変哲もない泌尿器科ということになっている。だけどこの場の誰も、それで来院してはいなかった。
「佐々木カナタさん。診察室までどうぞ」
やっとのことでスピーカの声に呼び入れられて診察室に入る。部屋には女医と女性看護師がいた。
「佐々木カナタさんですね。私がここの院長の水月です」
「はい」
「再度確認ですが、マゾ矯正科の受診でよろしかったでしょうか」
「……はい」
泌尿器科とは別の顔として男性を相手に性的な責めを提供する場所でもあった。ロールプレイングのようだが、彼の前にいる水月院長は実際に医師で、その傍らにいる女性も看護師の資格を有している。
彼は今日が初診であり、今後の方針を決める重要な場だった。インターネットを介して質問票を回答し、それをもって今日の受診の予約とした。それでも再度確認するように待合いの場で紙に書いて回答する必要があった。
「早速ですが、触診をしますのでズボンを脱いでベッドで四つん這いになってください」
ベルトを外して下半身を露出させる。陰部は剃り上げて無毛で、深々と皮を被った一物が垂れ下がる。この状況で胸は高鳴り興奮しているが、勃起させてはならないと彼は思った。
「可愛らしいですね。貞操具は最高で……」
彼女がカルテを確認する。連続着用の最高記録を見た。
「二週間ですか。自己管理でなかなかですよ。お尻の方失礼します」
ゴム手袋をつけた指が肛門に進入する。人差し指と中指の二本程度なら容易く飲み込むことができた。指先には潤滑剤が塗られていてスムーズに中をかき回す。否応なく包茎口から透明な液体を垂らした。
「お尻でも遊んでますね。前立腺もいい感度です」
触診が終わってもズボンを戻すことは許されない。そのまま診察は進む。
「上の方もお願いします」
そう言われて上半身も脱いだ。
「はだけさせるだけでよかったのですが。乳首も大きいですね」
ゴム手袋を外した彼女の指先が触れる。男性にしては些か前に飛び出し気味の突起をこねくり回す。快感より、彼女にそんなことをさせてしまった申し訳なさが先に立つ。触診が終わった後で彼女はアルコールで手を消毒した。
ひとしきりの診察を終えた彼女はカルテに書き込む。その内容はひどい崩し字の外国語だったから彼には読めなかった。
「現時点で重度のマゾです」
淡々と彼女は言い放つ。だけどそのどこかに愉悦が込められていた。
「重度、ですか」
「はい。上から二番目になります」
「その……いちばん上というのは」
「もちろん、末期のマゾですよ。佐々木さんがマゾ矯正治療を受けるとなると、それを目指すことになります」
いやに真剣な様子で水月は続ける。
「重度マゾと比べても、ずっとずっと救いがなくて、どうしようもない存在です」
その紹介で彼は萎縮するどころか、却って興奮していた。その証拠として、触れてもいないのに鈴口がゴポリと音を立てるようにカウパーを噴く。クスクスと、それを目の当たりにした看護師が嗤う。
「ああ……本当に本当ですね。真性のマゾといいますか」
院長は書類を用意する。説明書と同意書がいくつか含まれていた。
「末期マゾ矯正は初診からだと三ヶ月かけて行います。二ヶ月目まで、いつでも中止できますが、それ以降は本人の事由では止められません。一ヶ月ごとに意思確認のため、同意書にサインしてもらっています。つまり三ヶ月目の同意書が止める最後の機会になります」
まずは一ヶ月目の同意書が彼に差し出される。いくつかの制限事項は人権に食い込んでいそうだった。四つ足のまま頭を垂れて事項を黙読する。安物のペンが渡される。
「あの……本当によく考えてくださいね」
彼女は念押しした。そんな彼女の気遣いを無碍にするように、署名欄に名前を書き記す。それだけで彼は絶頂を迎えてしまいそうだった。
「ありがとうございます。えっと、自分の意志で射精できるのは今この瞬間が最後になるかもしれません。どうしますか? 別室でーー」
「このまま……」
興奮しすぎた彼はできるだけマゾらしい返答をした。
「精子の凍結保存もしてまして」
女医の提案は、彼の身になにが起きるのか暗に示していた。
「い、いいです、このまま、お願いします」
水月は苦い顔をした。看護師はクスクスと笑う。
「いきなり末期マゾですもの。そりゃそうですよセンセ」
「そんなこと言っちゃ……喜んでるならいいですが……」
あきれた様子でカルテに必要事項を書き込む。そしてそこからの処置は看護師に任された。服や荷物を持たされて、浴室のような処置室に連れられる。
途中、待合室の患者は彼の同類で憐れむような、羨むような目線を彼に送った。診察室を出るからといって服を着ることは許されなかった。
「貞操具をつけましょうか」
メジャーでなるだけ精密に局部をはじめ腰回りの寸法を計られる。緊張の糸が切れたようで、ついに海綿体に血が通って陰茎が硬度を増す。それを目の当たりにした看護師は露骨に不機嫌になった。
防水エプロンを着た看護師はシャワーを出すと、タンパク質の変性温度と同じ温度の噴水を浴びせた。腰を引きそうになると彼女はがっしりと腕を掴んで離さない。
温めたかと思えば、カランの温度調節を捻りきって常温の水をぶつける。そのおかげで海綿体から血が引いて膨らみかけたソレは萎んだ。
根元の太さ、陰茎の太さと長さ、睾丸の容積、皮余りだからその長さまで記録される。それをもとにリングとケージが選ばれた。
局部の水分が乱暴に拭き取られ、ベビーパウダーをまぶしてリングをペニスにはめる。窮屈で、指が一本入るかどうかの余裕しか残されていなかった。
貞操具ケージの穴に布が通されていた。一端をリングにも通すと、布の誘導でリングとケージを結合させる。布が抜き取られた後で余った皮が可愛らしく飛び出す。
檻はあまりにも小さかった。余裕がないどころか、陰茎は体内に押し込まれて亀頭は圧縮されている。もはや血液が凝集することすら難しそうだった。
「洗浄機を貸し出しますから、二週間以上開けて来院してくださいね」
箱が台に置かれて中身を改められる。眼鏡店の店先に置いてある超音波洗浄機そのもののようだったが、専用品だと看護師は言った。
「温かいお湯を入れないと動作しないので、ちゃんと毎日使ってください」
物と書類の写しを渡され、そのまま終わりになる。貞操具に収った性器は勃起を封じ込まれたまま透明の先走りを垂らした。
「ほら、はやく着替えて帰ってください。他に患者が待ってますので」
看護師に急かされて、服を着た彼は診療所を後にした。