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 男の人はズルいと思う。下半身的な意味で気持ちよくなる方法が溢れていて、しかも手軽にアクセスできる。女性用の風俗は首都圏でも限られているし、料金は世間の風俗と比べて格段に高いくせに気持ちよくなれるかは未知数だ。

 射精みたいな分かりやすい指標はないし、イキ方のバリエーションも多い。アダルトビデオでセックスを学ぶなというのは男性に対しての話であって、女性としては男を喜ばせる方法の教科書だ。

 だけどその逆はどうだろう。男性が女性向けのAVを見るとは思えない。ここでもやっぱり不平等だと思う。女性を気持ちよくする方法を学んだ男性は殆どいない。女性用に開かれているそういう『エステ』の男性セラピストも、そういう研修は受けていて上手かったけれど私の望みとはかけ離れていた。

 私は乱暴にされたかった。それは鞭打ちとか三角木馬とか暴力的な意味ではなく、ただひたすら快感を与えられていたい。嫌だと口で言っても続けて欲しい。だけどそれを他人に、しかも性欲の形が違う男性に委ねてしまうのは怖かった。血も涙もない機械の方が私は信頼できた。

 最初は自分で自分を縛り付けてする自分を壊すオナニー、通称自壊オナに勤しんでいた。だけど自分で自分を縛るから安全志向になる。私の場合そういうところで変に理性が働くから事故を起こさなかった代わりに欲求不満は募った。

 それでダメ元で探して見つけたのが日本快楽機械工業有限会社だった。アダルトグッズの開発製造販売をしている会社で、事業の一つとして本社にて性感帯を刺激する機械を時間貸ししている。同性のスタッフが準備をしてくれるサービスつきだった。

 今日も私は会社を脱出すると、借り家がある方面とは反対の電車に飛び乗った。都心に本社を構えられるような会社ではないから本社は郊外にある。電車の乗客は徐々に減っていき、最終的に乗っているのは私ぐらいになった。この先はもう、終着点まで行く人が殆どになる。

 終着点に手前の無人駅にある貧相なIC読み取り機にパスケースをかざして抜けると、目と鼻の先にワゴン車が止まっていた。

 月に二回のペースで通っている訳だから、それなりにお得意様だと思う。だからなのか事前の予約日に社員の人が迎えに来てくれるようになった。

「よろしくお願いします」

「ウーッスお待ちしておりましたー」

 運転席に座っているのは同性だった。基本的に希望しない限り最初から最後まで同性が対応するらしい。ちなみに女性はそのまま、男性は女性を希望することが多いらしい。

「稲津彩夏さんっすねー。担当の戸坂恵那っす。それでは出発しますねー」

 間延びした甘ったるい話し方だった。前回の機械セットアップは彼女にしてもらった。あられもない姿を晒した相手で、同性相手といってもいくらか気恥ずかしさを感じる。

「いやー普段なら送迎って事務さんにお願いしてるんすけどー、ほら今日って連休前じゃないっすかー。ウチもみんなわりと有給取っちゃってがらんどう気味なんすよー」

「ああ……なんか……すみません……」

 暗に責められている気がした。世間はこれから大型連休で、中日や前日に有給を入れて連休を拡張する人も多い。

「ああっ、いや、そんなつもりじゃなくてー。最初から最後まで同じ人に担当されるって恥ずかしくないっすか? なんか、日常に区切りがつかないっていうかー」

「……どうせ入れっぱなしにされてるので別に」

「うへぇっ!?」

 白々しく思えるくらいに素っ頓狂な声だった。

「ああ、ああ、そうっしたよね。いやー自分で渡しといて何言ってんだか」

 前回のセッションは一週間前で、その帰りに器具を渡されている。

 アダルトグッズ製造をしているだけあってお土産に買って帰れるが、私が受け取ったのはその類いではない。

 色々なメニュー・オプションがある中で最初から好き勝手に選べる訳ではない。強すぎたり避けられない性刺激は快楽を飛び抜けて苦痛になりかねない。

 だから、どこかのカレーライスチェーンみたいに上級を選ぶためにはその下級をクリアしなければならない。肛門に異物挿入するにしても伸ばさないといけないのだから当然といえば当然の話だ。

 私はそれをほとんど乗り越えた。今は最後に残った課題をクリアしようとしている。

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