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 犬、猫、牛、馬、鶏など、この島ではいろいろな動物が飼育されている。ただし、世間と動物園や牧場とは違って、その動物扱いされている存在はどれも元が人間だった。

 だから、この島の人間は全てを一人で取り仕切る飼い主とたまに来る見物客くらいだ。動物たちの世話係ですら、どこかしら動物の要素を持たされる。

 私がなったのは豚だ。豚は知能も高く、イメージに反して素晴らしい動物だと飼い主は断っていたが実際の序列としては下だった。牛や鶏のように死なずに生み出せる物がなく、その体型から馬のようには力強く俊敏には動けず、手足に蹄を取り付けられるから犬や猫のように手先が器用でもない。

 この島では形が人間から離れるほど扱いにも人間らしさがなくなっていく。その点でも豚は下で、肉を切り刻む手術で人間らしさを奪われている。

 ただし私は比較的まだ人間っぽい部分が多い。豚のなかで唯一、まだ頭髪を持っているというくらいだが。サラサラで艶めかしい髪は私の自慢で、体はホースで水を掛けるだけなのにシャンプーで洗ってもらえる。だけど、来たときのままの部分は人間だった頃がフラッシュバックして後ろめたい気持ちが湧いてくる。

 顔はそういう後ろ暗い気分にはならず、ただ暗澹たる気持ちになるだけだ。ミスコンに選ばれた面影は全くない。突き出た鼻は穴が前を向いていて、詰め込まれた軟骨でぼやけた逆ハートマークを作っている。パーティグッズにありそうなつけ鼻は、紛れもなく自分の顔から生えている。

 先端の赤黒い部分には本物の豚に由来するシートが移植されて常にうっすらと湿っている。体とはまた別の臭いを作るから、強い獣臭が文字通り離れない。鼻腔の途中には弁があって、空気が一定の速度以上で通るとふごふごブウブウと情けない音が出た。この鼻の整形は今のところ、島に居る豚は全頭に施されている。

 他はバラエティに富む。私は耳介を削ぎ落としてゴム樹脂製の折れ耳に置き換えられたけど、自前の耳を引き延ばされた豚や本物の豚の耳を移植された豚もいる。

 金属製の蹄を着けるために私は手の先や足の先を切断されたけど、肘と膝から切り落とされた豚もいる。

 素肌はそのままに上からラバースーツを着せられているだけの豚もいれば、私のように顎から下に薬液を塗られてラバー質に変性されられた豚もいる。お腹側は女性器まで肌色のまま、他の部分は黒く染められた。

 飼い主はラバー趣味の持ち主だから、動物はだいたいラバーを身につけている。だから獣臭の次にゴムの化学的な臭いがどこでも漂っている。

 空が白む頃に飼育係がやって来て、豚小屋の鐘を叩いた。朝の合図で他の豚が目を覚まし、ぞろぞろと放牧されていく。

 この島では何らかの貢献をしなければ存在を認められない。しかし豚にできることは限られている。

 消去法であてがわれたのは島の動物が出す排泄物の処理だ。動物たちに与えられるエサはおおよそ統一されているから臭いも似通っていて、私たちが栄養失調にならないだけ用意されている。

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