おしがま探偵プロトタイプ2 (Pixiv Fanbox)
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Twitterでネタを接収して書きました。おしっこを我慢している間だけ伝説的な探偵になれる女の子の話です。
一刻も早くここから離れたい一心で彼女は必死で頭を働かせた。焦燥感は彼女に壇上で注目を集め、まとめ上げた推理を披露するという大それたことを成し遂げさせた。
推理は的中して、犯人から自白を引き出すことに成功した。しかし事件解決とはならず、往生際が悪かった犯人はパーティの人混みを盾代わりに逃走を図った。拳銃らしきものを抜いて誰かが叫び、会場はパニックの最中にある。
そして彼女は絶望した。尿意が切迫しすぎて舞台から一歩も動けないと気がついたからだ。いくらか前屈みになり、太ももをぴったりくっ付けた体勢をわずかにでも崩した瞬間に決壊するだろう。
尿意が焦燥感の正体だ。彼女が催してからトイレに行こうとした矢先に、そのトイレから被害者が発見された。現場を保存しなければならないという声が上がって出入りできる雰囲気にはならず、警察が到着してからは黄色いテープが張られた。
家に帰ることは事情聴取の関係で許されなかった。盗まれることを危惧して身分を証明できるカード類を持ってこなかったことが今はむしろ彼女に牙を剥いた。一人になるトイレも警察の誰かに申告する必要があり、男ばかりで気後れして最後の最後まで言い出せなかった。
下腹部にたまる圧力を紛らわすためにウロウロと歩き回り、思考を繰り返すうちに彼女は犯人に気がついた。その時点で膀胱の膨らみは危険領域に達していて、警察に話を通すという最もらしい道筋を外れさせた。
焦りつつもいやに冴えた頭で彼女は解決策を導き出そうとする。銃撃戦のような緊迫した場面では、交感神経が優位となり尿量は減って平滑筋も収縮するはずだ。
しかしあまりにも大きい水負荷の前ではアドレナリンも無力だった。しかも飲んでいたのはアルコール類とその酔いを緩和するためのカフェインを含む清涼飲料水で、尿量を増やす効果を持つ。
余剰な水分は腎臓でくみ出され、管を通って膀胱に注いで無慈悲に張らした。潰された内臓がしゃっくりを上げて吐き気を催し、ほんの一筋だけ内股に生暖かさが伝わった。
最初はまだ耐えられると思った。しかし彼女は千丈の堤も蟻の一穴から、ということわざを体現することになった。
濁流を途中で止めるなんてできなかった。下部尿路にある内外二つの括約筋を貫いて水流が下る。ピリピリした痛みが尿道口にあったが、それがまたスパイスのように快感を強める。
強すぎる開放感に彼女の頭が蕩けた。いままでにここまで我慢を重ねた上での放尿はしたことがない。膝はガクガクと震え、さっきまで焦りが見えた顔は恍惚と諦念で笑みが自然と浮かんだ。
どれだけ放流したか、正確な秒数を彼女は捉えられるはずもない。ほとばしりに勢いがなくなってわずか数秒後に彼女は素面に戻った。足を伝ってヒールの中まですっかりずぶ濡れで、暖かだった下半身は気化熱により急速に冷えつつある。
グレー系のドレスを着てきたがために、濡れ染みは黒くなってかなり目立っていた。唯一の救いは水分を大量に摂っていたために、臭いらしい臭いは全く感じられない。
原稿台の陰に立っていて、しばらくは衆目に晒される事態を避けられそうだが時間の問題でしかない。さっきまでの思考力はフイに消えて頭の中は真っ白になる。
体内の圧力バランスが急激に変化し、血液分布にも偏りが生じる。迷走神経反射も起きて足下が揺らぎ、辛うじて立ち続けるので精一杯だ。
「そこの君もはや、く……えっと」
推理を演説する彼女を止めようとした刑事は避難させるために近付き、異変に気がついた。呆然と、しかし間違いなくその目は彼女の失態を捕らえていた。
「やっ、あ、見ないでぇ……!」
銃程度でうろたえなかった彼女はやっとパニックに染まった。慌てて高台から降りようとしたものの、刑事はむしろ彼女を引き止めた。
「待ってて」
冷静なささやき声を残して何か思い立ったように舞台を飛び降りて、キンキンに冷えたドラフトビールの瓶を何本も抱えて彼女の元に戻った。そして王冠を飛ばし、彼女に目がけて液体を振りかけた。
「事件解決おめでとー! 犯人も逮捕されたって!」
優勝したみたいに祝辞を述べた。ビールの方が香りも色も強く、しくじりの痕跡をかき消すには十分だった。犯人が確保されたという情報で、パーティの参加者も落ち着きを取り戻しつつある。
どっちかというと恥をかいたのは刑事の方だ。いい年をしてバカ騒ぎをしているろくでなしにしか見えなかった。
彼女がずぶ濡れになってから会場は静寂に包まれる。事件が解決したのは本当で、警官が帰路につく人々を誘導していた。
「何してるんだ。警部とは思えんぞ、ソフィー?」
彼の同僚が話しかける。ソフィーと呼ばれた女性刑事はわざとらしい苦笑いを浮かべた。
「証拠品の大麻でも吸ったか」
「ちょっと! この子は知り合い。科学捜査コミュニティの会でほら、話して、ね?」
ソフィーは目配せをした。
「えっと、はい、はい……」
「オーケイ、またアンタのろくでもない友だちか」
「ろくでもないって、しょっちゅう助けられてるじゃない」
「半分くらい違法――まあいい。次からはもう少しやり方を考えるべきだな。大統領演説みたいにやったせいで大騒ぎだ。マスコミがうじゃうじゃ来てる」
「ごめんなさい……」
「ああ、君は謝らなくていい。後始末はこいつが」
「喜んで。でも、先に家に送ってあげないと。夜も遅いし」
ソフィーに導かれて彼女は地下駐車場から外に出て、通りに停められている警察車両まで誰の注意も引かずに辿り着いた。
座席を汚さないように事件現場を隠すときに使うような青いプラスチックシートが広げられ、彼女はその上に座った。
「家は? この近く?」
身分証明書がないから、彼女は口頭で住所を伝えた。そう離れた場所ではなくソフィーは笑って車のエンジンを始動させた。
「あの、ソフィアさん」
車のダッシュボードに掲げられた顔写真付きの証明書で、彼女は刑事の名前がソフィア=ホースフォードだと判明した。
「ソフィーでいいよ」
「……ありがとうございます」
「気にしないで。それはそれとして見事な……ごめん、なんて呼べば?」
「エリカ、エリカ=クランストンです」
「良い名前ね。リッカって呼んでいい?」
そういったニックネームで呼ばれることに彼女は慣れていなかった。だからどことなく居心地が悪く感じたが、それを表明できるほど彼女は強くなかった。
ソフィアは良く喋った。舞台の上でエリカのおもらしに対処したときの冷静さは欠片も見受けられない。
「ビールじゃなくてゲータレードのがよかったかな。両親になんて言えばいいのか」
「独り暮らしですし、お酒は飲める年齢です」
間接的に容姿に触れられてエリカは嫌な気分になった。実年齢にそぐわない幼げな容姿はコンプレックスだ。
「ごめんね。若々しく見えたから」
しかしソフィアはエリカの内心を全く読まず、直接的に取り上げた。
「よく言われます」
「でしょうね。うらやましいなあ」
「あまり便利でもないですよ。いっつも職務質問とか年齢確認されたりするので」
「それもそうか。私は高校からこの体躯と顔だから、いろいろとワルできたし」
ソフィアの身長は同僚の男性刑事と比べても遜色ない。女性どころか男性の中でも大きい方に分類されるだろう。
「いいなあ……」
口には出せなかったがエリカは何よりソフィアの豊満なバストが気になった。大きすぎるのは考え物だとしても、ないよりはマシだ。
「まあ、隣の芝生は青く見えるってヤツよ。あのアパート?」
エリカが入居している集合住宅が見えてきて、その前で車が止まった。ドアのロックが解除される。
車のドアを開けると冷たい風が吹き込んでくる。季節の変わり目で昼夜の気温差が大きく、それに濡れた衣服が加わると凍えるようにエリカは感じた。
「ありがとうございました」
「こちらこそ。おかげで犯人が捕まったし。あと、お節介かもしれないけどセキュリティがいいとこに住んだ方がいいよ。治安もそんな良い地区でもないからさ」
ソフィアの指摘は正しい。女一人で住むにはいささか危険な場所だった。しかし今のところ、エリカはうまく立ち回れていて都市部にあるまじき家賃の安さに目が眩んだ。
「そのときはまたソフィーさんが助けてください」
「アハハ、任せてちょうだい。それじゃあね」
ソフィアはエリカがアパートの中に入るまで見届けた後に車をUターンさせた。しばらくエリカはエントランスから外を眺めていて、静かになったらエレベータを経て自分の部屋のドアを開けた。
びしょ濡れのドレスを洗濯カゴに脱ぎ捨ててシャワーを浴び、そのまま倒れ込むようにベッドで眠りに落ちた。安心できる住居に戻ると疲労感がにじみ出てきて、家事のことを気に掛ける猶予すらなかった。
そして事件から数日経ったある日、エリカは切迫した尿意で目覚めてベッドから飛び抜けた。一週間のうちに同じ過ちを二回も犯すわけにはいかず、急ぎながらも慎重に彼女はユニットバスを目指す。
「うわっ!?」
しかし彼女の奮闘も虚しく、洪水が堤防を越すようにチロッと先走りが体の外に出る。誤差の範囲と言い切ることもできたが、トイレ以外の場所で排泄をした敗北感はごまかせない。
出しかけておいて途中で止められたのは股間にツンとした痛みを感じたからだ。不器用そうな歩みで浴室に入り、便器のフタをどかして腰を落とす。
下げたショーツに残るシミはいやに濃くて赤みがかっている。いくら一日で最初の尿だとしても、赤色は異常を示している。
いざ下半身に力を入れて尿が管を通りだすと、変わらず彼女は痛みを感じた。慌てたせいで手元にスマートフォンもなく、不安に苛まれながらも体内の液体を排出する。終わり際の滴っている間が最も痛みが強く、体を折って焼灼感に耐えた。
体調も悪かった。頭は熱っぽいのに体には寒気が走り、水の中にいるように体の動きが鈍い。搾りきってもう出てこないのに微妙な尿意は残り続ける。
初めての経験だった。残尿感に不安を覚えながらも便座に別れを告げる。覗いた便器の中は白濁していて、流すのは少し待とうとエリカは思った。
汚れた衣類を洗濯機の中に放り投げ、下半身を露出したままスマートフォンを握る。検索すると考えられる病気の名前はすぐ出てきた。
感染性の膀胱炎のようだ。限界突破するほど蓄尿したうえ、ソフィアにビールを浴びせられた後に外気に触れて体を冷やしたにも関わらず十分に暖めなかったから当然だった。
病院に行こうとは思えなかった。あまりいい保険には入っておらず、医療費が高額となってしまうからだ。
そこでインターネットを通じて医師に相談できるサービスで症状を伝え、処方箋を遠隔で受け取ることにした。そうすると薬代と合わせても10ドル程度で完結できる。
続いて問題になるのは薬の受け取りだった。尿意を感じて再び便所に入ったが、数滴が痛みを伴って垂れるだけで感覚ほどは溜まっていない。
生理ナプキンを使っていたならこの時に代用できたかもしれないが、彼女はタンポン派だ。まさか尿道に綿の棒を挿入してせき止めることはできなかった。
仕方なく新しいショーツを両足に通して、クロッチに当たる部分にティッシュペーパーを何枚も重ねて置いて安心感を得ることにした。実際に使う気はなく、もしもに備えるためのものだ。
ファッション性を考える余力なく外行きの服に着替え、指定の薬局に向かう。雲の上を歩いているような平衡感覚で、道行く人々からは距離を取られた。
果てしない道を歩いている思いに彼女は駆られた。しかしふと気がつくと薬剤師の前に立っていた。スマートフォンの画面を見せると、それだけで用意されていた処方薬が現れる。
色々と述べられた使用上の注意を彼女は聞き流した。勧められたクランベリーのサプリメントも深く考えずに購入を決め、代金を支払うと品物を受け取って踵を返す。
目の前におむつのパッケージが飛び込んだ。子供用だけど、彼女の体格なら十分に穿けるのかもしれない。
「大丈夫ですか?」
動きが止まった彼女に薬剤師が声を掛ける。それで我に返って彼女はそそくさと薬局を出た。しかし帰り道でも薬局で目撃したものが頭を離れなかった。
尿意は絶え間なく、また出そうに思えてしまう。薬剤師は細菌を流すためにも水分をたくさん摂ることが望ましいと助言した。
ただでさえ頻尿なのに尿量が増えてますますトイレに立っていたのでは落ち着けず治りが遅くなってしまうのではないか。だから対象年齢でなくとも、おむつを当てることは理にかなっている。