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受けているSkebの依頼、その冒頭(3650字)になります。 今月中に完成させる予定。がんばります。 ~~~~~~~~~~ 「あなたの前世は〇〇です」 ……などとしきりに耳にするようになった昨今だけれど、それが分かったところで何になるのだろう。 占いみたいな感じで流行りだしたこの概念を聞くたび、いつも微妙な心境になる。 血液型みたいに4種類しかないタイプに分けられても困るけど、前世というのもかなり曖昧な話だ。 仮に前世が動物だったと言われたとしても、自分の身体に直接の関わりがあるわけでもないし、その影響が出るとも思えない。 盛り上がっているのを否定する気はないにしても、興味を引かれることは微塵もなかった。 少なくとも自分には……それ以上にインパクトのある言葉が、頭の中に残っているのだから。 「お前の先祖は猫又なんだよ」 あれはまだ幼稚園の頃だっただろうか。 何の前触れもなく、祖母からそんなことを真顔で告げられた。 猫又といえば、尻尾が二股に分かれた猫の妖怪である。 人間みたいに2本足で立つらしいし、人語を話せるらしいし、子供ができてもおかしくはない……のか? まぁ化け猫とかと同じような扱いだし、絵本とかで小さいころからなんとなく存在を知ってはいた。 そんな妖怪と先祖の誰かの間でハーフができて、そこからさらに子孫が繋がっていって……僕が生まれたのだ、と。 子供心にはショック過ぎる話だったし、忘れようがない話だった。 大人になった今はもう、真に受けるようなことではない。 猫又の存在自体が……という点もあるけれど、確かめようがない事に対して色々と割り切れるようになったのもある。 もし、万が一の可能性で本当だとしても遠い昔のことだ。それ以降の代は人間しかいないわけで、猫又の血は何十、いや何百分の1にも薄まっているはずだ。 実際、これまでも普通に人間らしく生きてきたわけで、何か猫又としての影響を感じることはない。 しいてあげるとすれば……家の近くの野良猫が寄ってくるくらい? 「猫田秀」という自分の名前、この苗字から言い伝えが生まれたのか、言い伝えをベースに苗字をつけたのかは分からないが、妙な因縁があるものだと思う。 これからも特に何かが起きるわけでもなく、ずっと普通の日々を送ると思っていた。 そう……あの日までは。 転機というのは突然やってくるものらしい。 仕事を終えた帰り道、電灯があってもなお暗い夜道を歩いていると…… 「……っ!」 「……てめぇ……っ!」 何やら、あまり穏やかじゃない声が路地の方から聞こえてきた。 ただの喧嘩なら距離を取って終わりだっただろうけど、雰囲気や言葉の端々からしてどうやら違うらしい。 声からして大人数のようだし、誰か1人に対して一方的に迫っているようだ。 (ヤバそうだけど大丈夫か……?) 心配になって、通りからバレないようにこっそり様子を伺ってみると、路地裏の壁際に向かってガタイのいい男たちが誰かを取り囲んでいた。 彼らの視線の先にいるのは、女性だった。 暗がりでもわかるくらいに白い肌と、色素の薄いストレートの銀髪は腰あたりまで伸びている。 外人の方なのだろう、その顔立ちはとても整っていて、浮世離れした美貌としか表現しようがない。 服装もファッション誌に載っていそうな、かなり露出の高い短パンとシャツ。 遠目にも存在感を放っている胸に、短パンから露わになった太い脚。 プロポーションがいい……というか、体格からして日本人離れしている。 モデルや女優だと言われても納得してしまうし、こんな場所でなければ思わず見惚れていただろう。 身長もかなりあるようで、男たちと比べても彼女の方がわずかに背が高くみえる。 普通なら気圧されるだろうが、男たちは酒にでも酔っているのか至近距離まで詰め寄り、一方的にヒートアップしているようだ。 「黙ってんじゃねぇぞこのアマぁ!」 「…………」 彼女の方はただ立っているだけながら、迫る男の方たちの勢いは収まらない。 ヤバい、勝手にキレて殴りかかる寸前だ。 (ど、どうすれば……) このまま立ち去るのは男として……というか人間としてしたくはなかった。 でも平均的な身長と体型の僕に、あんな集団をまともに相手ができるわけがない。 何か方法はないかと必死に頭を働かせる。ただ時間がない。 (とにかく、やるしかない!) 直接戦っては勝ち目がないだろうが、距離を保って大声でお巡りさんを呼ぶフリくらいならできる。 いざとなったら本当に通報できるよう、スマホも取り出して起動しておく。 本当にヤバいことになったとしても証拠にもなるし、周囲を見渡して全力で逃げるルートも脳内に用意する。 僕は覚悟を決めて、そのまま路地に身をのりだして…… 「あのっ」 ガコッ! 声を出すのとほぼ同時に、彼女の正面にいた男の首が曲がった。 そのまま後方に倒れて、身体一つぶんの視界が開ける。 そこにいたのは、わずかに体勢を後ろにした女性と、直立からY字になったシルエット。 ハイキック。綺麗な曲線を描いて振り上げられた足は、男の側頭部を的確に捉えていた。 力を込めたからか、ボコりと浮き上がった太腿の隆起。 その太い脚の大半が、筋肉で構成されていたのだと理解する。 「は? 何やって──」 ドスッ! 周囲の男たちが理解できずに固まっている中、鈍い音が立て続けに響く。 ギリギリ僕の目で追えたのは、白銀の髪をなびかせながら男たちと間合いを詰め、的確に急所を捉えて昏倒させていく彼女の姿だった。 「この……っ」 途中からは男たちも攻撃を始めたのだが、そのほとんどが空振りに終わっていた。 脚だけじゃない。全身の筋肉が連動して、すさまじいスピードと瞬発力を生み出している。 中にはタイミングがかみ合い、クリーンヒットしかけたものもあったのだが—― ガッ 「ぐっ……!?」 男の拳は、彼女の腕に阻まれていた。 拳を完全に受け止めたその腕は微動だにせず、男の腕力に力負けするどころかむしろ押し返していく。 予想外の光景に、驚きに目を見開く男。 バキャッ 「うごォッ!」 彼女はそのまま、完全に受け止めた上でカウンターを決めていた。 スピードでも力でも上をいかれてる……残った男たちの間に、恐れのような空気感が広がっていく。 ドゴッ、ミシッ、ゴスッ! 彼女の動きが止まる気配はなく、一撃ごとに人影はみるみる減っていく。 1分もしないうちに、彼女の周りには倒れた男たちの山ができあがった。 静寂が戻った夜の路地裏。 結局、僕は何もすることがないまま事態は解決してしまった。 「……あら?」 普通の立ち姿に戻ったところで、こちらの存在に気づいたのか彼女が振り向いて目が合う。 遠目に突っ立っている僕のことに気づいたらしい。 「だっ、大丈夫……ですか?」 予想外の展開に思考が追いつかないまま、たどたどしく声をかける。 ただ、見ていただけ。なんとも格好が悪いが、しかし黙ってどこかに行くわけにもいかない。 全員倒したのを外から見ていたわけだし、男たちの仲間とは思われてないはず。 「…………」 つかつかと歩み寄ってくる女性。 その足がほんの少し前まで破壊力抜群の蹴りを生み出していたわけで、背筋がわずかに震える。 無言で迫ってこられて、反射的に目をつぶりかけたのだけど…… 「ふうん」 蹴りが飛んでくる気配はなかった。 ただ、さっきの立ち回り以上に至近距離で顔を近づけてくる。 じろじろと僕の全身を見てくる彼女。 「な、何を……?」 予想外の行動に頭の中が困惑でいっぱいで、聞き返すことしかできない。 目の前まで迫ってきたがゆえに、彼女の身体や顔がよく見える。 その太腿は片足だけでも僕のウエストくらいありそうだし、たわわな胸も分厚い胸板で押し上げられている。 圧倒的なその肉体に、ただ立ちすくむことしかできない。 目の前まで迫ったその身体からは、うっすらと汗の甘い匂いがした。 「あなた、面白い血ね」 「……はい?」 突然、よく分からないことを言われた。 僕の身体に傷やケガはないし、血が見えるような場所もない。 理解できずに固まる僕へ、彼女はさらに続ける。 「まだ眠ってるままだけど、まるで猫みたいな……」 「えっ!?」 核心を突かれたような衝撃。 ずっと頭の中に染みついていた、祖母の言葉が脳裏に蘇る。 血……って、僕の先祖のことを言ってる? 僕の何かを見抜いた? 先祖が猫又って……もしかして本当に? というか、この人は何者なんだ? 言葉の意味は分かってきたものの、頭が疑問で一杯になっていく。 「それ、どういう意味で……」 「ここじゃ面倒だし、興味があったら来てくれる?」 遮るように、彼女から名刺サイズの紙を差し出された。 「私はノエル。普段はここにいるわ」 シンプルな自己紹介を聞きつつ受け取った紙には、住所が記されていた。 ここから遠くないし、改めて向かうこともできそうだ。 「私なら、あなたの奥にあるものを開花させられる。もっと……強くなりたいでしょう?」 「強く?」 何もできずに突っ立っていた自分の情けなさは確かに感じた。 一応は男なわけだし、強さや逞しさに憧れはある。 でも、それと猫に何の関係が……? 「じゃあ、またね」 ノエルと名乗った彼女は固まっていた僕の横をすり抜けて、そのまま溶けるように夜の闇の中へ消えていった。

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