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 高校2年目にして人生の転機を迎えた遠野涼士郎だが、どれだけ絶頂期であろうと学生の本分は学業である。

 学生をやっていれば定期的に襲ってくる試験を逃れる術はない。

 それは涼士郎であっても例外ではない。そして彼にとって定期試験こそが学生生活一番の鬼門であった。


「まずいな……」


 5月中旬のある日のこと、教室内で涼士郎の沈痛に満ちた声が静かに漏れた。

 何故彼は苦虫を噛み潰したような顔をしているのか。それは彼が手に持っている一枚の紙が原因である。


 その紙は数学の時間に出された小テストの答案用紙だった。

 定期試験前の簡易的なテストだが、涼士郎の点数は30点を下回っていた。

 これが本番だったら赤点だ。小テストですら点を取れていないのだから、このままでは中間試験で確実に赤点を取ってしまう。


 涼士郎にとって、これは看過できない緊急事態だった。

 彼は元々そこまで勉強が出来ないというわけではなかった。

 成績は全体の中の下程度。得意科目はクラスでも上位だが、苦手科目は赤点スレスレ。

 とても褒められた成績ではないものの、これまで赤点はかろうじて回避してきた。


 けれど、今回はマジでヤバいかもしれない。

 今回の小テストの結果は、彼に危機感を抱かせるには十分すぎるものだった。

 涼士郎は何故かつてないピンチに陥っているのか。それは智香との関係が一因していた。


 智香とセフレの関係を結んでから、一日中彼女とのエッチのことばかり考えてしまい勉強に集中できないのだ。

 脱童貞したばかりで気軽にエッチができる女性が身近にいるのだ。思春期の少年ならば、セックスのことで頭が一杯になってしまうのも無理からぬことである。


「これは流石に勉強しないとな……」


 試験が危ういのは数学だけではない。最近、全体的に授業についていけていないのだ。

 このままでは全教科赤点という阿鼻叫喚の結果になってもおかしくない。

 もしそうなれば、追試はおろか進級にも影響が出てくるだろう。

 2年生になって初めての定期試験にして、その後の学生生活を左右しかねない重要な局面がやってきた。

 この小テストの結果で、セフレができて浮かれていた涼士郎の背筋が一瞬で凍りついたのだった。


「どうしよう……」


 普通に考えれば、試験まで必死になって勉強すればいいだけの話だ。

 だが涼士郎は今まで真面目に勉強してこなかった人間なのだ。

 学生の身分でありながら勉学に身を入れずにのらりくらりと生きてきた男なので、いざ勉強に励もうと思っても何をすればいいか分からないのだ。

 涼士郎がどうしようかと頭を悩ませていると、彼の視界に一人の少女の姿が映る。


「……そうだ。丙さんに頼んでみよう」


 涼士郎のセックスフレンドである丙智香は、学年でもトップクラスの成績を誇る優等生だった。

 成績優秀な彼女ならば、万事休すの涼士郎の助けとなってくれるかもしれない。

 智香に多大な希望を抱きながら、少年は放課後を待つことにした。


 ×××


「丙さんに頼みたいことがあるんだ」

「私に頼みたいこと……?」


 その日の放課後。涼士郎は文芸部の部室に入るやいなや、先に待っていた智香に声をかけた。

 いきなりの頼みごとに、智香は不思議そうに小首を傾げる。

 あまりにも突然過ぎたので、そういう反応なのも無理はない。

 しかし今は急を要するのだ。涼士郎は早速本題に入ることにした。


「丙さんってテストの成績良かったよね?」

「えっ、テスト? うん、悪くはないと思うけど……」

「最低でも、俺よりずっと頭がいいよ。……それで物は相談なんだけど、丙さんが良ければ俺に勉強を教えてくれないかな?」

「私が遠野くんに勉強を……?」

「そうなんだ。実は……」


 斯々然々。

 涼士郎は事の経緯を智香に説明する。


「なるほど。赤点になったら大変だもんね。遠野くんの事情は分かったけど、私は他人に勉強を教えたことがないから勝手が分からないよ。それでもいいの?」

「全然構わないよ。丙さんの考え方を参考にして、少しでも勉強に役立てたいんだ」


 今回ばかりは、智香に対して下心があって頼み込んだわけではない。

 涼士郎は必死だった。智香とのセックスライフを維持するためには、絶対に退くことはできないのだ。


「遠野くんがそう言うなら、私も頑張って教えるね」


 涼士郎の熱意が伝わったのか、智香は真剣な面持ちで応じてくれた。

 どうにかこれで首の皮が繋がった。まだ何も事態は解決していないが、ほっと胸を撫で下ろす涼士郎だった。


「俺のためにありがとう、丙さん」

「良いの良いの。遠野くんには普段お世話になってるから、そのお礼ということで」


 自分のために一肌脱いでくれる智香には頭が上がらない。

 持つべきものは成績優秀なセックスフレンドである。

 こうして、涼士郎は智香とともにテスト勉強に励むことになるのだった。


 ×××


「おはよう、遠野くん」

「あぁ、丙さんおはよう」


 そして週末の休日。

 涼士郎は智香の家にお邪魔していた。

 何故涼士郎が智香の家に来ているのか。

 それは彼女に協力を取り付けた日に誘われたからだ。


「遠野くん。せっかくだから今度の日曜、私の家にこない?」

「えっ、丙さんの家に……? 良いのか?」

「うん。その日は家に私一人だから問題ないよ」

「そっか。なら丙さんの家にお邪魔しようかな」


 彼女にとっての『問題ない』とは、一体どのような意味なのか。

 そこは深く追求しないとして、女の子の家に行くことになって胸が高鳴る涼士郎だった。

 以前の初デートと同じように、未知の体験とはどうしてこうも興奮するのか。

 遠足前の小学生よろしく、前日の土曜はよく眠れなかったくらいだ。

 脱童貞して一ヶ月経つというのに、未だに童貞臭の抜けない涼士郎なのだった。


 そして現在。涼士郎は生まれて初めて女子の家に突入を果たした。

 あまりにドキドキしすぎて、彼女に招かれて入ったのに何か悪いことをしているかのような錯覚を抱く。


「今は家族居ないんだよね……?」

「うん。家族は夜まで帰ってこないから、それまでは二人きりだね」


 何故彼女は二人きりをそんなに強調するのか。

 自分は勉強するためにここへ来たんだ。

 決していかがわしい理由でお邪魔したわけではない。

 そう自分に言い訳をして、涼士郎は未知の領域へ足を踏み入れる。


「遠野くんが部屋に来るから、急いで掃除したの。普段家族以外に入らないから、ちょっと恥ずかしいな……」


 智香の部屋……!

 女子の家に入るばかりか、女子の部屋に入れるというのか。

 度を越した興奮で鼻血が出てきそうだった。

 初セックスや初デートでも、ここまで興奮はしなかっただろう。

 それだけ涼士郎にとって女子の部屋というのは禁断の聖域なのだ。


「ここが私の部屋。入っていいよ」


 涼士郎がかつてない興奮で心臓を破裂させそうになってる中、程なくして智香の部屋に到着した。

 心の準備がまだできていないが、女子の部屋に入るのに躊躇していては男が廃る。

 涼士郎は勇気を振り絞って室内へ足を踏み入れる。


「これが丙さんの部屋か……」


 初めて入る智香の自室は、清潔感溢れる落ち着いた部屋だった。

 思ったより物は少ないが、普段は物静かな彼女らしい清楚な雰囲気だ。

 そして絶対に口には出さないが、部屋中から女の子っぽい良い匂いがする。

 まるで彼女に密着して直接匂いを嗅いでるみたいだ。

 予想外の嗅覚への攻撃に頭がクラクラしてきた涼士郎をよそに、隣の智香は気恥ずかしそうに頬を赤らめた。


「あんまりジロジロ見ないで。何もない面白みのない部屋でしょ?」

「そんなことは……。丙さんらしくて良い部屋だと思うよ」


 多方面からの情報量で思考を割かれて、そんな無難すぎる返ししかできなかった。

 いくら初体験を済ませようと、根本的に女性経験の少なさが顕著な涼士郎なのであった。


「さぁさ。あまり部屋ばかり見ていないで、早速勉強を始めようよ」

「あぁ、そうだな」


 このままでは智香の部屋を眺めているだけで延々と時間を潰せてしまうので、そろそろ本題に入らなければならない。

 そうだ、自分は智香の家に勉強しに来たのだ。別に遊びに来たわけではないのだ。

 そんなこんなで、涼士郎と智香はテスト勉強を始めることにした。

 果たして涼士郎は、初体験の女子の部屋でざわついた精神のまま勉強ができるのだろうか。

 そんなことはやる前から火を見るより明らかだった。


 ×××


「それじゃあ、テスト勉強を始めるね。遠野くんの苦手な教科は何かな?」

「苦手な教科ねぇ……」


 智香の質問に涼士郎は唸る。

 そもそも得意な教科と呼べるものがないので、全部が苦手と言ってもいいかもしれない。


「苦手な教科しかないけど、一番苦手なのは数学かな……」

「数学か。それなら数学から勉強しようか」


 部屋の中央に置いてある小さなちゃぶ台に、二人が隣り合って座っている。

 あまりスペースがないので自然と肩が触れそうな距離なのだが、それが落ち着かなくて仕方ない。

 彼女とは肌が触れ合う以上の行為をしているとはいえ、性行為以外の日常で距離が近いとドキッとしてしまう涼士郎なのだった。


「この前の小テストの結果はどうだった?」

「実はこんな有様でして……」


 智香に言われて、涼士郎は小テストの答案用紙を見せる。

 あまり他人に見せたくない点数だが、彼女は笑うことなく真剣な表情で結果を見ていた。


「なるほど……。小テストで出た問題の範囲が定期試験で出されることが多いから、今回は小テストで間違えた問題を中心に勉強しよう」

「はい、お願いします丙先生」

「もう、先生はやめてってば」


 涼士郎にしてみれば、智香は危機的状況に現れた救世主も同然だ。

 こんな馬鹿のために時間を割いて勉強を教えてくれるというだけで、畏敬の念を抱かずにはいられない。

 涼士郎の中で、智香の評価が天井知らずに上昇していくのだった。


「どうせなら、最初の問題から振り返って解いていこうね。この問いは……」


 いよいよ勉強となった智香の顔が間近に迫る。

 教室で目にする、地味だけど可愛い容姿だ。

 皆が知ってるこの表情の他に、涼士郎は別の顔を知っている。

 それは情事の時の淫らなメスの表情だ。

 もうひとつの顔を知ってると、普段の表情もとたんにエロく見えてくる。

 それにここは智香の部屋だ。彼女のプライベートゾーンで見ると余計に卑猥に思えてくる。


 ダメだ。関係ないことばかり頭に浮かんできて勉強に集中できない。

 せっかく智香に勉強を教えてもらうために来たのに、これでは本末転倒だ。

 考えてはいけないと思えば思うほど、強く強く頭に残ってしまう。

 涼士郎は完全に負のスパイラルに陥っていた。


「……遠野くん、どうしたの? 私の話聞いてる?」

「あっ、あぁ、聞いてる聞いてる」


 脳内で煩悩と戦い上の空になっていた涼士郎に気づいたのか、智香が顔を覗いてくる。

 マズいマズい。頭を下げて教えを請いている立場なのに、他のことに気を取られるなんて失礼極まりない。

 涼士郎が別のことに意識を向けていたのを察したのだろう。智香はムッとした表情で彼に迫る。


「もしかして、エッチなことを考えていたでしょ?」

「いや、勉強中にそんな不埒なことを考えるはずが……」

「だったら、その股間はどうしたのかな……?」

「あっ……」


 気づくと、愚息がいつの間にか硬くそそり勃っていた。

 あまりに卑猥なことを想像しすぎたようだ。

 面目が立たない恥ずかしい状況に、涼士郎は視線を外すように俯いた。


「ごめんなさい……」

「もう、仕方ないなぁ。あそこがそんなになったら勉強どころじゃないよね。仕方ないから、一回抜いてスッキリさせちゃおうか」

「えっ……?」


 涼士郎の勃起によって、智香の表情が一瞬にして変わる。

 真面目な優等生から、一転して淫乱なメスの顔に変化したのだ。

 こうして智香の自宅での勉強会は、思わぬ方向へと転がっていく。

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