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 彼女いない歴=年齢のモテない童貞だった遠野涼士郎は、ある日図書室でオナニーに耽るクラスメイトの丙智香を目撃する。

 その後校舎裏に智香を呼び出した涼士郎は、彼女の望み通りにエッチなことをする協力関係を結び、智香と初エッチに至る。

 まともな女性経験のない彼にしてみれば正に我が世の春である。

 しかしこの出来事は、これから起こる様々なプレイのほんの序章に過ぎなかったのだ。


 ×××


 遠野涼士郎は童貞を捨てた。

 これは男にとって人生最大のイベントである。

 女の子と一回エッチしたくらいで男は単純に大人になった気になり、世界を知ったと達観してしまうものだ。

 丙智香と性交し文字通り一皮剥けた涼士郎も、その例外ではなかった。


 女の子とセックスした女の子とセックスした女の子とセックスした……!!

 童貞卒業から数日、涼士郎の脳内はそのことでいっぱいだった。

 朝起きてから夜眠るまで一日中あの光景がフラッシュバックし、とても普通の生活を送れる状態ではなかった。

 それだけ智香との初体験は、彼の人格を覆すのに十分すぎる体験だったのだ。


「あ~、であるからして……この問いは……ここが……こうなって……」


 ある日の授業中、涼士郎はぼんやりと虚空を眺めていた。

 元々勉強は得意な方ではないが、最近は輪をかけて授業に身が入っていなかった。


 原因は明白だ。先日智香とセックスしたことにより、少年は悪い意味で本懐を遂げてしまったのである。今は一種の燃え尽き症候群的なアレであり、何もかもやる気が起きない状態だった。

 童貞をこじらせすぎてしまった反動でもあるのだが、彼がこうなってしまった理由はもうひとつある。


 涼士郎の視線が虚空から智香に移る。

 彼女と性交を果たして一週間、智香とのめくるめく淫行生活が待っているかと思いきや、エロはおろか会話すらなかったのだ。

 話ができるタイミングはいくらでもあった。登下校時の正面玄関や、教室で、休み時間で、放課後に、話をしようと思えばできたのだ。

 しかし恋愛経験の少なさから、女子に話しかけるのに勇気が必要なのは非モテの性みたいなものだった。

 それが初体験の相手でも、智香とはこれまで付き合いのない同級生でしかなかったのだから、簡単には打ち解けられない。

 結果として、涼士郎は人生の最高潮に達してしまい腑抜けた男になってしまったのだった。


「ここの問題、遠野解いてみろ」

「はいっ……!?」


 そんな気の抜けた炭酸水となってしまった涼士郎に、知ってか知らずか教師による迎撃が入った。

 今は授業中だ。油断している生徒は教師に当てられ痛い目を見るのが運命であろう。


「あっ……すみません、分かりません」


 そこまで成績の良くない涼士郎が、準備もしていない突発的な問いに答えられる訳もなく。


「ちゃんと授業を聞いてないから答えられないんだぞ。もういい、座れ」


 教師に小言を言われ、周囲から冷ややかな視線を浴びながら着席するハメになるのだ。


 しかしながら、授業に集中できていなかったのは涼士郎だけではなかった。


「次、この問題を……丙、解いてみろ」

「はへっ……!?」


 涼士郎の次に教師に当てられた智香は、彼と同じように素っ頓狂な声を出した。

 彼女は慌てて立ち上がり、そして赤面しうつむきながら恥ずかしそうに言う。


「……すみません。私も分かりません」


 これは涼士郎も意外だった。

 涼士郎はともかく、智香は成績優秀な生徒なのだ。彼女が教師の問いに答えられなかった姿など、彼は一度として見たことがなかった。

 それは教師も同じなのだろう。智香が問題を解けなかったという事実に涼士郎以上に驚いていた。


「丙、体調でも悪いのか? 悪いなら無理をせず保健室に行くんだぞ」


 涼士郎の時と対応が間逆だが、これも日頃の行いのせいであろう。

 そんなこんなで、少年の予想に反して空虚な日常が無意味に浪費されていく。

 今日、この日の放課後までは。


 ×××


 結局その後もぼーっと適当に学校生活を消化し、放課後。

 後は帰宅するだけとなった涼士郎に、話しかけてくる人物が居た。


「あの、遠野くん……」


 それは智香だった。

 初エッチをして以来話もしていない彼女が、自分から涼士郎に話しかけてきたのだ。


「丙さん、どうしたの?」


 涼士郎が返事をすると、智香は気恥ずかしそうに言う。


「……この後、暇かな?」

「えっ」


 涼士郎の退屈な日常が、再び反転した。


 ×××


「ごめんね、急に呼んじゃって……」


 場所は文芸部の部室。

 部屋にいるのは、智香と涼士郎の二人だけ。

 つまりは、彼女と性交した時の状況と同じだ。


「良いよ、どうせ暇だし」


 期待するなという方が無理な状態に、涼士郎も内心ソワソワしていた。

 彼女が涼士郎を呼び出す理由。そんなものはひとつしか思い当たらない。


「それでね、遠野くん。貴方に頼みたいことがあるの」

「頼みたいこと?」


 オウム返しに聞き返す涼士郎に、智香は小さな声音でたどたどしく答える。


「あの、その……またエッチなことをして欲しいなって」


 彼女は語る。涼士郎とエッチした後のことについて。


「……遠野くんには感謝してるの。こんな私とエッチしてくれたから。でも後で冷静になって考えると、あまり良く知らない男の人に迷惑をかけるのは良くないなって思って。……それで、あれから一週間は我慢してたんだけど」


 智香の瞳が情欲に濡れている。

 彼女の肉体は持ち主の思い通りにはいかなかったようだ。


「我慢すればするほど、あの時の光景を鮮烈に思い出しちゃって。寝ようとしても満足に眠れなくって、アソコが疼いて仕方ないの。私って、本当に変態なんだね……」

「我慢する必要はないよ。俺も同じ気分だし」


 動揺する智香に、涼士郎は助け船を出す。

 身を滅ぼしかねない肉欲を持て余している彼女を助けられるのは、自分しかいない。

 だから涼士郎は智香に言葉をかける。できるだけ彼女のためになればいいと。


「俺は自分から望んで協力関係になったんだから、丙さんが思い詰める必要はないんだ。なんだかんだ俺も楽しんでるし、丙さんのやりたいようにやればいいと思うよ」

「遠野くん……」


 涼士郎の言葉に、智香は瞳に薄っすらと涙を浮かべる。

 彼女をためらわせていた常識という名の霧が晴れたのだろう。


「ありがとう、遠野くん。私、もっと自分に正直になるね」

「あぁ、俺にできることなら何でもやるさ」


 こうして二人は、若気の至りで持て余した性欲を発散していく。

 両者滾るリビドーをひとつに重ね合わせて。


「それじゃあ、その、早速で悪いんだけど……」


 感動的な雰囲気から一転、智香は興奮した様子で涼士郎を見つめる。

 迷いがなくなった分、エッチに対して彼女は非常に積極的だった。


「恋人みたいなエッチがしたいなって……」

「恋人みたいな? 具体的にはどんな?」


 二人は実質恋人同士のようなものだが、智香にはまだ精神的なハードルがあるようだった。


「遠野くんとはまだ、お付き合いって感じじゃないけど……気分だけでも恋人みたいなエッチをしてみたいの」


 恋に焦がれる乙女みたいな気持ちだろうか。いや、多分違うと思うが。


「恋人みたいな、ねぇ……。俺も経験ないし知識だけだけど、やれるだけやってみるよ」

「うん、お願い」


 どう見ても付き合っている雰囲気の二人は、付き合っているという体裁でエッチをする。

 そのおかしな状況に気づいていない二人は、まるで付き合いたての初々しいカップルのようであった。


「恋人ってエッチの最初に何をするかな?」

「それはやっぱりキスじゃないか?」

「そうだよね、キスだよね……」


 そして始まったカップルという見立てのセックス。

 まずはキスをしようとして、涼士郎ははたと気づく。


 そういえば、智香とキスをするのはこれが初めてだ。

 前回の初体験の時はキスをすっ飛ばしていきなり本番行為までいっていた。

 彼女との初キスという事態に、涼士郎の心臓が爆音で鳴っていた。


「……丙さん、キスの経験は?」

「……ない。遠野くんが初めて」

「俺も。丙さんが初めてだ」


 つまりは、二人ともこれがファーストキスということだ。

 智香のファーストキスを奪うことをまざまざと意識し、涼士郎は今更ながらに気恥ずかしくなる。

 本番よりもキスのほうが恥ずかしいというのもおかしな話だが、あの時は性欲が先行していてテンションがおかしくなっていたのだ。

 こうして一度冷静になると、事の異常性を改めて認識してしまう。

 同級生とこんなふしだらな関係を結ぶなんて少し前までは考えもしなかった。


「キス、するよ」

「うん、良いよ」


 涼士郎の眼前に智香の顔が近づく。

 こうして間近で見つめると、やはり彼女は美少女である。

 なぜこんな可愛い女の子が自分なんかとキスをすることになったのか。

 信じがたい現実に疑いの目を向けてしまうが、こうして目の前に現れては目を背けることもできない。


「んっ……」

「んんっ……」


 最終的には男としての欲求に突き動かされ、涼士郎は智香の唇に自分の唇を重ねる。

 唇の柔らかい感触が伝わり、全身が幸福感で包まれる。


「んくっ、れろっ……」

「んあっ、ちゅぷっ……」


 そして燃え上がる劣情に促されるままに、二人は自然と舌を絡め合うディープなキスをしていた。

 互いの舌を愛撫し、口内を刺激し、唾液を交換する。たったそれだけのことなのに、どうしてこうも気持ちいいのか。

 それは目と鼻の先に相手が迫り、情欲を極限まで昂ぶらせるからかもしれない。


「んちゅっ、れらっ、ちゅう……」

「ちゅくっ、んはぁ、れちゅう……」


 それからたっぷりと3分間、二人は舌が蕩けるまで熱いキスを交わした。

 涼士郎のディープキスは、彼が想像したものよりも遥かに気持ちの良いものだった。


「はぁ、んはぁ……」

「んんっ、遠野くん……」


 舌から糸を引きながら、二人は唇を離す。

 男女の営みの出だしに相応しい、火に薪をくべるが如き濃厚なキスだった。


「初めてのキス、どうだった?」

「うん、すごく良かったよ……」


 長いキスで脳まで溶けてしまったのか、智香の顔はリンゴのように真っ赤になっていた。


「……と、遠野しゃん。恋人みひゃいなキスをしへくれて、ありがとう」


 のぼせたような表情で涼士郎に肩を抱かれる智香は、より一層綺麗だった。

 艶やかな智香の顔に見惚れる中、キスのしすぎで若干回らない舌で、彼女は言った。


「キスのお礼に、遠野くんのおちんちん舐めてあげるね」


 唯でさえ色っぽい智香に魅了されている涼士郎の心臓が、驚愕のあまり一瞬止まりそうになった。

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