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「〈黒紫真珠のネックレス〉……」

刑事は少し勿体をつけて、その名を呼んだ。

「これが偽物……贋作であるとの噂もあったが、――しかし私にとってはそんなことはどうでもいい。」

刑事は一呼吸置く。そして言い放った。

「なんであれ、盗みは、犯罪だということだ。」

美術館には、十数人の客と、そして警官が詰めかけている。

なにしろ、怪盗からの予告状があったのだ。噂の怪盗の活躍を一目見ようと、野次馬のような客もちらほらといる。

美術館全体は厳戒態勢が敷かれ、鼠一匹逃さないように警備の網がめぐらされている。

「厳重な警備が敷かれているのにも関わらず、ネックレスは忽然と姿を消した。しかし、先程からこの建物を出入りした人は誰もいない。」

そのことだけは刑事は自信があった。

「――状況からして、今ここにいる、この中の誰かが持っている可能性は非常に高い。」

じろりと、刑事はこの場にいる全員を見回した。

「これから全員の身体検査をさせてもらう!客だけでなくスタッフも。そして警官の格好をしているものもだ。全員だ!」

――何しろ誰かが変装しているとも限らないからな、そう刑事は付け加える。

「ピアナ君。すまないが君にも協力してもらうよ。」

そしてピアナの番がやってきた。


(まずいまずいまずい……)

ピアナはへその下に感じる強い圧迫感に悩まされながらも、どうするべきか思考を巡らせていた。

直腸挿入型ロケット。この中に、くだんのネックレスは収められている。直腸が傷つかないように滑らかでつるりとした円筒形で、ひねると蓋が開くようになっている。

警備の一瞬の隙をつき、ネックレスをすり替え、ロケットに収納。トイレでそれを肛門の中に収めた。そこまでは順調のはずだった。

――問題は、予想以上にロケットが大きいことだった。事前に試してこなかったことを後悔する。幸い、潤滑剤を多めに使用することで、収めることはできたのだが……

(気を抜くと……出ちゃうよ、コレ)

潤滑剤が多すぎたために、たいへん抜けやすい状態になってしまったのだ。括約筋の力を抜くと、たちまちニュッとその先端が顔を出す。慌てて引っ込めるが、一歩間違えばぼとりと全体が抜け落ちてしまいかねない。

そんな状態なものだから、歩くのも内股で、そろりそろりとゆっくり歩くことしかできなかった。

そして、刑事が盗みに気づき、集合がかけられ、脱出するタイミングを完全に逸した。

「ピアナ君、すまないが君にも協力してもらうよ。」

刑事が女性警官を伴ってピアナの前に立つ。

女性の身体検査は彼女が行うらしい。せめて男の警官だったら……遠慮があったかもしれないのに。

「は、はい……お願いします。」

ピアナは上ずる声で返事をする。

そして心の中で天を仰いだ。

(お願い……バレないで……っ!)

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