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氷の国の第一王女、ソフィがまだ17歳の頃の話である。

世界を見て回りたい、とわがままを言った。


もとより王宮を出たことすらほとんどない箱入りの身、好奇心だけは旺盛である。

17歳の誕生日を迎え、女王に勝手に将来の婚姻相手も決められてしまい、このまま一生王都で過ごすのだろうかと、ふと自分の人生に疑問に思う。まだ見ぬ世界を見てみたい。

だからわがままを押し通すことにした。


母たる女王から突きつけられた条件は、ひとつ。

一切のバックアップをしないということ。事実上の勘当に近かったが、一年後に必ず戻ってくるという約束もした。

いずれ女王として即位する前に、市井の者の生活を見てくるのもまた勉強だと。

ひとたび女王として即位し、<永久凍土のルーン>を継承したなら、もう二度と国を離れることは許されない。ならば、と、せめてもの慈悲が与えられた。


こうしてソフィはわずかながらの小遣いと、グレイスルーンの分身である<凍て星のルーン>だけを携えて、異国の地に足を下ろすことになった。ここからは自分の力だけで乗り越えていかなくてはならない。


ソフィ・R・ファルクの名を隠し、セファの偽名を使った。

身元を証明するものがなかったため、冒険者ギルドには登録しなかった。



一人旅というのは決して楽ではないこと。遠足やピクニックのようなものとは全く違うことを、思い知らされた。

最初に泊まった宿のこと。宿の相場も知らない。王都のベッドに慣れているセファには、普通の宿との違いがわからない。

宿賃は思ったより高額で、わずかな旅費はあっという間に底を尽き、負債に代わった。


そして、宿屋の主から路銀の”稼ぎ方”を学ばされることになる。

それは地獄のような時間だったが、旅の現実を知るいい機会ともなった。


辺境の地の旅籠屋というのは、旅人の宿泊費だけでは経営が成り立たないので、女郎屋も兼ねている事が多い。

この宿屋の夫婦も奥さんが客人と寝ることによって余分なお金を稼いでいる。

セファもその奥さんから礼儀作法を叩き込まれ、幾人かの客を取ることになった。


そうして学んだ世渡りの技術は、その後の旅に大いに役に立った。

行く先々で路銀を稼ぎ、ある程度貯まったら別の島に渡る。

冒険者ギルドに登録していれば割引が受けられるのだが、それがないため、宿屋の相場は5000G、船の運賃は3万G、飛空艇なら5万Gほど。

一晩で2万Gは稼げるので、路銀が底を尽くたびに客を探す。



何度か繰り返すうちに、この方法も案外悪くないように思えるようになった。

旅先で見知らぬ相手といきなりゼロ距離で交流できる方法は、これ以外にない。


男性たちは一発終えた床の上で色々なことを教えてくれる。

珍しい島のこと。音楽があふれる島、天気がよく変わる島、科学の発達した島。

今起きている戦のこと、政治の不満、抑圧された民の生活。

戦いのコツや、屋外でのサバイバルの方法。

そういったことを喜んで教えてくれるので、それが楽しみだった。

そしてえっち自体も、人によって上手い下手はあったものの、純粋に楽しめるようになってきた。


同じようにそうやって旅をする女性冒険家にも何人にも出会った。

時々パーティを組まないか誘われたが、一時的に共闘することはあっても、どこかに所属するつもりはない。一人旅をやめるつもりはない。

彼女らからは、世渡りのコツや、避妊の大切さも教えてもらった。

とはいえ避妊具はまだまだ高価で入手も難しく、また男性たちは使いたがらず報酬も下がるので、どうしても危ない日以外は使わない。


そのうち、護衛や傭兵など様々な方法で稼ぐこともできるようになったが、一番手っ取り早く稼げる売春はやはり美味しい仕事だった。



色々な島を見て回った。彼らが教えてくれる名勝や戦場も覗いてきた。

護身用の剣術も身につけた。国で基本的な剣術は学んでいたけれども、実戦のそれはまるで違う。魔獣を相手にするときは、近接攻撃よりも弓を使うことも学んだ。


― だが世界はあまりに広い。

わずか一年で見たものは、地図のほんの切れ端に過ぎない。


18歳の誕生日を迎え、氷の国に戻ったソフィは、見違えるような大人の女性になっていた。もう箱入りのお姫様とは言わせない。同時に、故郷に対する愛情も湧いてくる。


ソフィは宣言した。

「私、氷の国の観光大使になります!もっともっと世界を見てきます!」

そうして再び飛び出していった第一王女を、女王はため息をつきながら見送った。


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