環境呼応症候群 満月の子(原寸イラスト版) (Pixiv Fanbox)
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とある満月の夜。
月明かりが差し込む一軒家の子供部屋に、一人の赤ん坊が寝ていた。生まれて何ヶ月も経っていないその男の子は、悠月(ゆづき)と名前の刻み込まれたゆりかごの中で、すやすやと寝息を立てている。
平和なこの空間に、一人……いや、一匹の存在が侵入してきていた。窓際に姿を表したそれは、猫……のような小動物。二足で立つそれは、宇宙人のようにも見える。「それ」は、窓の外の満月を見て、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。そして、どこからともなく引っ張り出したスマホのような何かを赤ん坊に向け、画面を手早く操作した。
そして、悠月の呻きのような小さい声とともに、それは始まった。
その小さい体から、ゴキッ、コキッと骨や筋肉が軋む音がし始め、手足がビクン、ビクンと動く。そしてなんと、全身が大きくなり始めたのだ。カップケーキを焼くときのように、掛け布団の下で、急激にその体積を上げていく悠月の体。しかし、それはただ膨れていくと言うより、人体の成長を凄まじいスピードで早送りしていくようだった。
骨という骨がギシギシ軋みながら伸び、同時に太くなる。それと同時に顔も形が変わっていき、赤ん坊と呼べるものから、子供のものへと変化していく。
しかし、ゆりかごに段々収まらなくなるその体は、ただ成長しているだけではなかった。髪がサラサラと伸び、腰まで届くような長髪になる。そして、布団からはみ出してくるはずの男の象徴は、いつの間にか消えている。成長が収まりかけたところで、胸に小さな突起が立った。
悠月は、10歳くらいの体に成長するとともに、女性になっていた。窓際で変化を見つめていた生物は、笑い声を上げて去っていった。
悠月の両親が、息子が寝ていたはずのゆりかごに少女がいるのを見つけ、半信半疑ながら病院に連れていき、「メタモルフォーゼ症候群」と診断されたのは、次の日のことだった。それ以来、悠月は満月の夜ごとに、10歳年上の女性に変身するようになったのだ。
それから9年後。
「悠月、行けー!!」
「おりゃあああっ!!」
公園の野球場で草野球にはげむ少年たち。その中に、小学生となった悠月の姿があった。ランナーになっていた悠月は、二塁から三塁、そしてホームベースへと駆け抜ける。
「急げえええ!!」
ボールは外野手がキャッチし、キャッチャーに投げたところだった。悠月は滑り込みを決め、ボールが戻ってくる直前にホームベースにタッチした。
「セーフ!!」
「やったな悠月!!」
周りの男子たちが喜びエールする。息を整えた悠月は、すっくと立ち上がった。
「いぇーい!!……いったた……」悠月の足には擦り傷ができていた。他にもその数日間で作ったかさぶたが数個ある。
「ったく、三塁で止まってもよかったんだぞ」
悠月が公園のトイレで怪我の消毒をする間、ついてきたバッターの順番待ちの男子が呆れ顔で言った。
「何いってんだよ、男なんだからこれくらいは当然だろ」悠月はニッと口角を上げて返した。
「男だから……ね。そんなものなのかね。ばんそうこう貼ったら戻ってこいよ」
呆れたままの男子は、野球場に向かって走って戻っていった。
「ふん!……えっと、ばんそうこうは……と」ズボンの尻ポケットに手を入れ、絆創膏を取り出そうとした、その時だった。
ドクンッ!!
「うっ!!??」突如として悠月を襲った衝撃に、たじろぐ悠月。「ま、まさかもうそんな時間……!?」
周りはまだ明るい。そのせいで、悠月は満月が登る時間に近づいているのにも気づかず、野球に熱中していたのだった。公園の時計は、もうすぐ午後6時を指そうとしていた。
ドクンッ!!
「んんっ!!」再度襲った衝撃によろめき、足を洗っていた水道に手をつく悠月。その腕が、コキコキと音をたて、脈動していた。「だ、だめ、こんなところで!!」
ビクッ!!ビクンッ!!
「うっ、ふぅっ……!!」タンクトップの胸の部分に、2つの突起が飛び出す。その位置からして、その突起は悠月の乳首に他ならなかった。
悠月は激しい脈拍を全身で感じながら、近くにあった身障者用のトイレをなんとか開け、中に飛び込んだ。そして、鍵をかけた途端、ドクンッ!!と次の衝撃が襲ってくる。
「うぅんっ!!」ズボンの尻の部分がビチビチ!と膨らみ、パンパンになる。ドクンドクンと心臓が脈を打つのと同期して、さらにそれは膨らんでいく。胸の突起も更に大きくなっていく。
ドックンッ!!
「……っ!!」その突起の周りが、ミチッ!と盛り上がり、水音を立てながらまんまるに膨らむ。悠月の胸の上には、女性の乳房が成長を始めていた。腕や足は徐々に長さを伸ばしていく。悠月が鏡を覗き込むと、その髪がバサッと腰まで伸び、顔が作り変えられていく。
ドクンッ!!
さらに衝撃が襲うと、股間に激痛が走る。それは、悠月の男性器が押しつぶされ、体の中に押し込まれていく痛みだった。悠月が股に手を当てると、そこにもはや彼の男性の象徴は存在していなかった。
トクン、トクンと拍動しながら膨らみ続ける胸は、タンクトップの下や襟からはみ出す。これでもかというくらいに成長する乳房に、服の生地はギチギチと悲鳴を上げた。
おなかは丸出しになり、縦に伸びたへそがあらわになる。バキッ、バキッと何かが割れるような音とともに、骨盤が押し広げられると同時に、ウエストはキュッ、キュッと締められていく。
「んんん、んっ!!」包むものの断面が何倍にも大きくなったズボンは、ビリビリに破け、とどめのようなヒップの膨張に、体から落ちてしまった。伸び伸びになったブリーフが、なんとか悠月の股間を隠していた。
太ももはムチ、ムチッと太くなるが、ハリのあるきめ細やかな肌に包まれ、魅力的なものに仕上がる。タンクトップから半分以上はみ出たおっぱいは、タプンタプンと揺れ、その柔らかさを主張していた。
膝まで伸びた黒い髪はセットされたかのように美しく伸びている。
悠月は、ものの数分にして、男子小学生から爆乳美女に変身を遂げた。
「う、うぅ……恥ずかしい……」先程までの元気はどこへやら、顔を赤らめモジモジしている悠月。「また、おっぱい大きくなってるし……」
悠月が年齢を重ねるごとに、成長後の姿もどんどん大人になり、最初は思春期の少女だったものが今や育ちきった女性の体になった。なのに、成長期を終えているはずのその体は、変身するたびに胸のサイズは増えていた。
家ではゆったりとした服装に着替えてから変身していたものが、今回は着替えるまもなく窮屈な格好になってしまい、余計にその巨大さが強調されていた。
「ど、どうしよう……このままここに朝までいるなんてできないよ……」
周りを見ても、自分の身を隠すものなどない。悠月が途方に暮れかけたその時、トイレの扉を叩く音がした。
「悠月、腹でも壊したのかー?」
一緒に遊んでいた男子が様子を見に来ていたのだ。一か八か、悠月は必死で恥ずかしさをこらえ、その生徒に助けを求めることにした。
「あ、あの……服を……」
変身するときのあまりの恥ずかしさに、変身後は内気になってしまう悠月。その声は、トイレの扉越しに伝わるにはあまりに小さすぎた。
「なんだって?」
仕方なく、扉の鍵をあけ、少しだけ扉を開く悠月。だが、その時、収まりかけていた心臓の鼓動が、またもや強くなり始めた。
「な、なにこれ……!」
胸に熱がこもっていき、何かが爆発しそうな圧迫感に襲われる。
「悠月、さっさと開け……え!?」
しびれを切らした男子がトイレの扉を開け放ち、見たことのない半裸の女性にたじろいだその時だった。
ドクンッ!!
「ひゃあああっ!!」悠月の悲鳴とともに、すでに巨大だった乳房がミチィッ!!と膨らんだ。
タンクトップは一瞬それを押し留めたように見えたが、まもなくビリビリと破けた。悠月の胸は勢いよく飛び出し、男子の眼前でバルンバルンと揺れた。
「も、もう、どうなって……!あっ……」暴力的なまでのおっぱいを目の前で見せつけられた男子は、その場で鼻血を出して気絶してしまっていた。
男子から服を剥ぎ取り、胸と尻に巻きつけて家に逃げ帰った悠月が、その日が月が最も大きく見えるスーパームーンの日であったことを知ったのは、ずっと後になってからだった。