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僕には兄がいる。

強く、たくましい兄。

僕を巨大なクマから守って顔に大きな傷を負ったときも兄は歯をむき出しにして笑って許してくれた兄。

そんな僕の憧れの兄は成人とともに村を出た。

この地を治める貴族に勇者として抜擢されたと、我が家の誇りだと父はいっていた。

幼い頃の僕には貴族なんてどうでも良い存在だったが、兄が勇者に選ばれたのは嬉しかった。


それから数年。

勇者となった兄を追って、僕は冒険者となった。

初めては薬草採取ということで、草原で回復薬の素材となるハーブ、イヌハッカを集めるという依頼が入った。

町の裏通りにいた親切な老人に聞いたところによると、イヌハッカはポーションの材料になる蔓性の薬草植物で、爽やかな香りがするのが特徴らしい。

太陽の光を浴びて銀色に輝く特性から、とてもわかりやすいはずだと聞いた。

この近くの草原に群生していることが多いらしい。


「でも、これって本当に薬草なのかな……?」

僕は目の前に広がる光景を見て信じられない気持ちでいっぱいだった。

やっぱりここはおかしい……」

思わずそう呟いてしまうほど異常な光景。

まるで発情期の家畜小屋に迷い込んだような気持ちで、強い獣臭にくらくらとしていた。


多くの犬のようなモンスターが銀色に輝く草原の中で交尾を繰り返している。

しかも彼らはどちらもオスだということが股間についた一物から見て取れる。


「とりあえず……ハーブを集めようか」

初めての依頼を失敗したくない僕は、交尾に気を取られて気づいてないことを良いことに仕事を始める。

だけど股間が熱い。

ずっとこの場所にいると僕までおかしくなってしまいそうだ。


次の瞬間、頭におかしな音が響く。

""Warning! System Alert! Access to character personality data detected!""

意味がわからない。だがしかし、僕の股間がより熱く、体の芯に響く強い欲求が満たしていく。

「んぐぅうううう!!!」

ゴキっと骨が砕けるような音と共に走る強い快感にのけぞってしまう僕の体。

股間が漏らしたかのようにじわじわと濡れていく。


頭の中に声が響き続ける。

""Access to character personality data detected! Target race changed from human to Kobold...""


本来生えるはずもないゴワゴワとした獣毛が生え、ゾワゾワと全身を包むような快感は僕の思考を奪っていく。


「あぁあああっ!! はっ、はーッ、はーッ!!」

情けない声をあげながら僕はその場で尻もちをついてしまい、腰がガクガク震えて立ち上がろうにも立ち上がることができない。


母ゆずりの黒髪が赤黄金色に染まっていく。

兄から贈られた冒険者の服は太くなった足によって破け、父譲りの端正な顔は歪み、獣のように広がった口から熱い息が漏れていく。

ズイっと髪の毛を掻き分けて頭の上にピンとたった2つの三角の耳。

そして湿った鼻先が捉える強い獣臭は、嫌が応にも僕の体から漂っていることを強く示した。




「はーッ、はーッ……」

太く肉厚な肉球を僕は唖然とした表情で眺める。


次の瞬間、突然襲った衝撃に悲鳴をあげる。

「ガッ!?」

何かに押さえつけられてしまったのだ。

必死になって抵抗するがビクともしない。

仰向けに倒され、僕を見つめる2つの黄色い目。赤く染まった瞳。

「やだ……助け…で…ワウ…ガウウゥウ!?」


もう僕の声は人間の声すら出せなくなってしまったらしい。


「グルルルル……」

黒毛混じりの大きな犬型モンスター。

犬歯をむき出しにして笑う顔には大きなキズがあり、纏うボロボロの布は僕が苦労して縫い、兄へと贈った服によく似たもので。

そうか。彼は。

彼は僕の。

僕の思考は獣性に沈んだ。




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