実写版『岸辺露伴は動かない』第1話が勉強になりました (Pixiv Fanbox)
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NHKで放送した実写ドラマ版『岸辺露伴は動かない』第1話を見ました。さっき見終わったばかりです。
最初は漫画の実写化って不安だったんですけど、実際に見たら雰囲気が出ていたし、高橋一生さんの岸辺露伴は岸辺露伴の空気感だし、子供相手に勝ち誇ってて最高でした。
それで本作を観て勉強になったのは脚本を担当した小林靖子さんの見切りの良さと度胸です。小林さんの巧さは既にアニメ・特撮好きなら知ってることと思いますが、今作では「説明しすぎないほうが原作未読者にも伝わる」ことを教えてもらいました。
本当に大事な部分だけ残す
『岸辺露伴は動かない』は大作『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフで、主人公の岸辺露伴は人気漫画家、スタンド名はヘブンズ・ドアーです。
これだけで何を言ってるか分かった人はジョジョ読者。『ジョジョの奇妙な冒険』とは荒木飛呂彦さんの同名漫画で、スタンドとは『ジョジョ』第4部から登場する精神エネルギーを具現化しキャラクターとして描写したものです。
これでもまだ未読者には何のことだか分からないと思います。
ドラマ化となれば『ジョジョ』を観たことがない、スタンドって何ですかという視聴者でも楽しめるものにしなければなりません。ここで不安に駆られると、ついつい「スタンド能力とは〜」みたいなことを作中で説明したくなってしまうのですが、驚いたことに実写版『岸辺露伴は動かない』でスタンド能力に関する詳細な説明は一切出てきません。
冒頭で高橋さん演じる岸辺露伴が泥棒相手にヘブンズ・ドアーを使い、彼らの記憶を読んで書き換えます。それ以上くどくどと能力について説明しません。
つまり小林さんは1話50分程度しかないドラマで、スタンド能力や『ジョジョ』がどんな物語りかを長々と説明していたらテンポが悪くなるし、それを詳細に説明して映像化しても盛り上がるのは自分が知ってることを映像化してもらった既読者だけだから、説明すればするほどファン向けの閉じた作品になっていくと考えたのではないでしょうか。
だからスタンドについて説明しない。この作品で作中内ルールとして冒頭に設定されたのは、この主人公には他人の記憶や認識を読み書きできる不思議な能力があることだけですが、原作未読者への説明ならそれで十分と見切ったのでは?
『岸辺露伴は動かない』を原作未読者に楽しんでもらおうとするとき、この作品のおもしろポイントは「不思議な能力を持った主人公が不思議な状況に巻き込まれる」ことであり、「その不思議な能力で主人公が不思議な状況から抜け出せるか」のハラハラドキドキ要素やバトル要素が強度ある映像で描かれていれば、スタンド能力の詳細な説明などなくても視聴者は楽しめると優先度をつけたのだと思います。
どうしても“原作を知ってる側”からすると、これを説明しないと未読者は楽しめないのでは、ここが分からないと面白さが伝わらないのではとお節介を焼いてしまいますが、そういう大きなお世話を重ねるほど作品が外側ではなく内側に向かう——原作ファン向けの物になって射程が短くなってしまうという心算があったのではないでしょうか。
実際の狙いは分かりませんけどね。ただヘブンズ・ドアーの説明を冒頭5分で映像的に処理して、さっさと本筋を進める潔さと豪腕は凄いなと感服しました。