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前提

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以降、幻覚。






走る。


走る。


息も絶え絶え、木々を縫うようにただひたすら脚を動かしていた。

そうだ、私が一番知っている。


この『森』での、正しい進み方を。



ああ駄目だ。もう駄目だ。

自室。充分な熱を放つスマホを投げ出した。

今月分のFANBOXも、先月中に出すと言った立ち絵も何もかも終わっていない。挙句の果てにはクトゥルフの卓が今月だけで3件ある(つまりは差分あり立ち絵を3人描く)。

あと絵とかいうやつ、6~7人くらい描かなきゃいけないといけないらしい。


もう駄目だ。今月こそは駄目だ。

既に利き腕の手首を痛めた。

ツイートはしてなかったけど今月もう2回は失神してる。てか全然腹が痛すぎてもうカウントしてない。

あとライフハックなのですが、マツケンマハラジャは過敏性腸症候群と血管迷走神経反射に効く。今度論文を書いて学会で発表しようと思います。


紹介が遅れてしまった。

さて、読者の皆さんはバーチャルYouTuberをご存知だろうか。ご存知じゃなかったら今知ってください。

簡単に言ってしまえば、美少女や美男子、犬や猫のアバターを着てお話などをする、近未来感溢れる素敵なコンテンツである。

(レディ・プレイヤー観てないんですけど『俺はガンダムで行く!』ってことでいいんですか?よくなかったら刺してください)


私の名前はrauniot。

そのバーチャルYouTuberの運営をしている。

運営しているバーチャルYouTuberの名前は「時芳透子」。森の奥で一人カフェの店主をしている穏やかな女性(一応)だ。

ただ、あくまでも私と彼女は他人であり、私が透子さんの皮を被った訳でもなく、ただオリジナルの「時芳透子」を模倣したものをVtuberとして放出しているのが正しい認識である。

先程説明した文章と速攻で矛盾したことを書くのが気が滅入るが、まずこんなものを書こうとしている時点で滅入る気なんてある筈がない。黙って着いてきてほしい。

あと元字書きの創作者とは思えない蕪雑な文章力で書き進めているが、多分明日あたりになったら全てが嫌になる可能性があるので一瞬一瞬の出会いを大切にしてふぁぼとかしておいてくれると本気で嬉しいです。

すいませんマツケンサンバ


え?


Twitterとメモアプリ行き来してるんですけどDMで色々話してたら何書こうとしてたのか本気で忘れた。

何?

マツケンサンバの後何て言おうとしてたの?このアカウントはもう駄目です。

とりあえずずっとマツケンマハラジャ流してたの止めました。


松平健さんへ。いつもお世話になっております。YouTube登録しています。過敏性腸症候群と神経反射のダブルコンボを食らっている時マツケンサンバを聴くとなんとか精神が保てることに気が付きました。本気でお世話になっております。かしこ。


とりあえずあの、薬飲みますね。これを飲むとハイになって日頃の苦しみから解放されます。きちんと薬局で処方された合法の薬ですがそろそろカナダに移住して本格的に大麻を摂取したいと考えている所存です。ちなみに濡れると青くなるレベルの眠剤。

乳酸菌飲料で流し込みました。

これでこんな気が狂った手記とはおさらばだ。

もう1000文字は越えたしフォロワーをこれ以上付き合わせるのhaf@*_d…………………………



寝てました。


すいませんね。最近こういうの多いんですよ。

意識朦朧としながら書く文章が一番まずい。

後になって黒歴史になるから、早めに消すのがいい。


そうだ、早く消……。


……。


自室じゃ、なくない?


寝転がって見上げていた天井は木々に薄暗く邪魔をされ、上体を起こすと手に土が残っていた。

無意識ではたき、ズボンを汚し、それが(少なくとも)数時間前までの衣服と異なっていることに気が付き。

推しの色で塗った爪は健康的な桜色に戻っていることを見、眼鏡がピンクゴールドから紅色に変わっていることを確認し。


見渡すと鬱然とした樹木に囲われていて、重たい湿度が肌にまとわりつく。

耳をすませど、ひゅー……と笛のような名の知らない鳥の鳴き声と、木の葉が擦れる音だけが聴こえる。


銀髪のスラックス姿の女は、これをたまにある妙に解像度の高い夢だと判断した。

そして思案に耽り、よくやった、と呟く。


ここは私の知っている『森』だ、と。


何度も描いては消し、描いては消し、描写に悩まされながら作業を繰り返すことで嫌という程身に染みた、


ここは、


時芳透子の『森』だ。



冒頭に戻る。


銀髪の女はただ駆けていた。


それは活動四年目の経験と知識と勘だった。

『迷うことでしか見つからないものだってあるんだ』。

何時だったか自分にだけ聞かせてくれた言葉を覚えていた。


「──」でも読んだ。まず───は森の中で目を覚ます。


だから、つまり、きっと。


何十分も同じ景色を繰り返しているような錯覚と、「あ、もしかしてあたしの思い違いだったか?」と察し始めた頃。


唐突に道は開けた。



女は正直、とても感動していた。

一つの世界を突き詰めてそれだけでもう四年目なのだ。

ただ一人として踏み入れたことの無い(おそらく)この世界を描写し続けて、四年目になるのだ。


女には既に語彙が残っていなかった。

だから、言葉にして出力するよりも今は、五感をフル稼働して本物の『森』を肉体に溶け込ませることを優先した。


……ああ、これだ。


道なき道を「迷う」ことで突破した女は、その時見た景色を一生忘れることはない──と胸に刻むより先に、「知っている」、と昂揚感を抑えられなかった。


マグリットの絵のように気の遠くなる青空が、視界いっぱいの湖に鏡写しされ、数秒前まで駆け回っていたおどろおどろしい森とは似ても似つかない心地よい緑風が湖面を揺らしている。

その狭間に浮草のように一軒、ヨーロッパ風の可愛らしい邸宅が花に包まれて見える。


さて。本当は駆け出してあの元へ向かってもいいのだけど。


銀髪の女は水辺へ歩み、指でちょん……と水面を揺らしてみた。

一度やってみたかったことではある。

数秒待っても目当てのお迎えは無さそうなので、今度はもう少し強めにばしゃばしゃと叩いてみる。


と。


「騒がしいですね早すぎませんか?本日はどのようなお客様……で……」


湖面が持ち上がり、水を滴らせながらもグレイッシュピンクの髪をした整った顔の──比較的女性らしい──男と目が合った。


「うわ……」

「わ、すみません、服と眼鏡を底に置いてきたのでまず取ってきますね……!」


どうやらあちらも一瞬で理解をしてくれたようだ。

じゃぽん、ともう一度、彼の言う底へと戻って行き、シャツのボタンを雑に留め眼鏡を掛けながら上がってきた。


「特別なお客様がいらっしゃるとはヤマメさんからお聞きしましたが流石、この森のことをご存知なだけありますね。準備ができず初対面でこんな姿なのが申し訳ないです……」

「いや、え?『実在』をしている……」


ロングヘアをぎゅっぎゅと絞り犬のように身を震わせると、先程まで水中にいたとは思えないほど髪と服も乾いた姿になった。女が目をぱちくりしていると、「速乾仕様なんですよ」とだけ言った。そちらではなく。


繰り返すが女はこの活動をして四年目になる。彼の存在を知ったのは時芳透子よりも少し後だが、それでも目の前に本人がいると驚きと喜びで言葉を失ってしまう。


「え……?あの、本当に……?」

「ええ。実際にお会いするのは初めてですね。……はじめまして。淡乃と申します」

「あ……あ……存じております……rauniotです……」

「はい。こちらこそいつもお世話になっています」


掠れてほぼ息だけになる喋り方も、微笑み方も、「知っている」ものだった。

限界オタク寸前の女を、彼は困ったように見守ってくれている。


「すいませんあの、一つだけお願いしてもいいですか?」

「はい。何でしょう」

「手袋の中見せてもらうことって」

「嫌です」

「作画資料」

「嫌です」

「大体何かは予想付くけど直に見たい」

「嫌です」

「おい」

「嫌です」


問答は、女がくっ、と堪える形で終えた。

またいつか見せてくれるといいな……なんて名の通り淡い期待をしながら。

「生態図鑑でもお読みになればよろしいのでは?」直がいい……。「嫌です。」


「『此方』にいらしたのはどう言った理由が?」

「さあ……それが分からないんですよね。眠って気が付いたらここに」

「……ふむ。この場所は堅実に守っていますが、迷いを持った人間はふと訪れることがございますね」

「それは知ってるんですけど、いまいち心当たりが無くて……」

「参考程度にお聞きするのですが、就寝前は何を?」

「転生小説書いてた」

「わ……」

「作業が終わらなさすぎて私が透子さんの世界に転生する小説書いてた」

「わ……」


引かせてしまった。

それでも大きな鈍色の目をぱちくりする姿を、女はシンプルに「描きてぇ……」と思っていた。男はやけに描いていて筆が馴染む見目だった。


「錯乱状態ですね……良い病院紹介しましょうか?」


心配させてしまった。


「もっと強い薬出されるだけなんだよね」

「僕もそう思います」


確かにこうして対面するのは初めてのことだったが、見知った仲である二人は徐々にいつもの──Twitter等での──調子に戻っていく。

水辺での談笑は思いの外弾み、女がそろそろかなと思った頃。淡紅の男は切り出した。


「……さて。ここに来たということは」

「是非とも行きたいところがある」

「でしょうね。明るいうちに向かいましょうか。夜の森は一層危険と相場で決まっています」



淡紅の男は「関係者なので裏口からでも良いのですけど、せっかくなら正規のルートで訪れたくはないですか?それではお待ちしております」と伝え、水中へ戻って行った。先回りをしていくのだろう。

案内を放棄されてしまった銀髪の女は置いてかれた……とぽつりこぼしてから岸に沿って遠回りで歩いていく。


はじめましてと言おうか、こんにちはと言おうか、心構えはできていない。

でもせっかくここまで来てしまったのだ。女はやっぱり淡乃さん引き止めておけばよかった……と後悔しながら進むと、いつの間にか木製の扉はもう目の前に。


女は唸りながら、もうどうにでもな~れ!と扉を開け



誤字修正読み返し酒薬の類いは行っておりません。


さようなら。

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