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「誠、はよ~」

「おはよ。今日は遅刻じゃないんだね」

珍しく始業ベルが鳴る前に教室に入ってきた千昭に、俺は少し驚きながら話しかける。

「そろそろ単位やべぇからなぁ」

そう言って頭を掻きながら眠そうに欠伸をする千昭。

千昭は明るい髪色と制服を着崩しているせいで少し軽々しい印象があるが、その抜群に整った顔のお陰でダルそうな姿すらも様になっていた。

高い身長を活かして強豪のうちのバスケ部でも常にレギュラーに入っており、その試合にはいつも女の子達が千昭目当てに応援に駆け付ける程にモテる男だ。

「あぁやべぇな。今日傘持ってきてねぇぞ」

「今日天気予報では晴れだったよ?」

「いや、千昭が遅刻してないとか雨降んだろ」

「おい、どう言う意味だよ!」

俺の前の席に座って、そう冗談を言いながら千昭の反応を見て笑うのは巧介だ。

健康的に焼けた肌に黒髪の短髪、そして野球部の練習で鍛えられた男らしい身体つきに精悍な容姿。

チャラそうな千昭と反し、硬派な雰囲気のある巧介もまた女子達から人気が高かった。

そんな二人と俺は幼馴染だった。

そんな凄く目立つ二人と俺は違って俺は普通だし、むしろ地味な分類だと思うが、二人はずっと俺と仲良くしてくれた。

むしろ…


「誠~!今日数学の課題やんの忘れた…写させてくれ」

そう言いながら席に座る俺に後ろから抱き着いてくる千昭。

「っっ!!ダメだよ。ちゃんと自分でやらないと意味ないでしょ」

千昭はいつもスキンシップが激しく、学校でも構わずべったりくっついて来ることが多い。

「おい、課題ぐらい自分でやれ。あと誠にくっつくな」

するとすかさず巧介が千昭を俺から引きはがしに来るのが常だった。

「頼むって!今日俺出席番号的に当てられんだよ」

「甘えんな」

「功介には言ってねぇだろ!!」

「誠の代わりに言ってやったんだよ」

そして言い争いに発展するところまでが日常だった。

「あぁ分かったから。はい。写したらちゃんと返してよ」

埒があかないと思った俺は、仕方なく千昭にノートを渡す。

「誠…!!」

それに喜び目を輝かせる千昭は、尻尾を振って喜ぶ犬そのものだった。

そんな姿をちょっと可愛いと思ってしまう俺も大分毒されている気がする…

「ったく、甘いなぁ…」

「じゃないとそのやり取り終わんないでしょ」

「ありがとう誠!!」

「んわっ!!」

巧介と話している最中に再び抱き着いてくる千昭に、驚いて思わず変な声が出てしまった。

「だーかーらー、お前は誠から離れろ!!」

「いってぇえっ!!」

そんな千昭の頭を殴る巧介。

そして再び始まる言い争い。

二人といるといつも騒がしいけど、俺はそれが楽しかったし好きだった。



「で、どっちにすんだよ」

そして俺は今、究極の選択を迫られている。

「俺と千昭、どっちと付き合うんだ」

「え、えっと…」


そんな二人から告白されたのは、1か月前のことだった。

いつもの帰り道で突然二人から『昔から好きだった』と伝えられたのだ。

俺は全く気付いていなかったが、どうやら二人は昔から俺のことを好きでいてくれたらしい。

二人と違ってクラスでも目立つ方でもないし、幼馴染じゃなかったら二人とは今のように仲良くなれたかも怪しい俺のことを、好きになるはずなんてないと始めは信用できなかった。

だけどそれからと言うもの、二人は帰り道でも教室でも俺のことで言い争いをするようになり、目に見えてアピールされることが多くなって、今では本気なんだと驚きながらも信じるようになっていた。


そして俺の部屋で今、痺れを切らした二人からどちらかを選ぶように迫られていたのだ。


「えっと…あの、俺としては今まで通り三人で仲良く…」

「つまりどっちのことも好きじゃないってことか?」

「あ、いや、そう言う訳では…」

「じゃあ選べよ」

「う……」

二人の勢いに押され、どうして良いか分からなかった。

二人がどこまで気付いているかは分からないが、俺は元々性的対象は男だったし、正直な話二人のことは魅力的な対象として見ていた。

ただ自分のことを好きになってくれるはずなんて無いと思っていたし、付き合うことなんて憧れてはいたものの期待どころか思ってもいなかった。

それが今選べと言われると、どちらも魅力的過ぎて恐れ多くて選ぶことなんてできない。

見た目も言動も軽いしバカなこともするけど、明るくて実は誰よりも優しい千昭。

スポーツや勉強に真面目な硬派な印象だが、実際はノリも良くて男らしい巧介。

そして二人ともジャンルは違えど圧倒的に見た目まで良いとくれば、俺には勿体な過ぎる二人だ。

それにそんな二人から顔を至近距離まで近づけて迫られ、俺はドキドキしてまともに考えることなんてできなかった。

「千昭に遠慮なんかしなくて良いぞ」

「はぁ!?なんでてめぇが選ばれる前提なんだよ!!」

「ちょ、ちょっと、落ち着いて…」

今にも喧嘩しそうな雰囲気の二人に思わず止めに入ったものの、その原因が俺のせいであまり強く言えない。

「お前は昔からそうだよな!いっつも自分だけ大人ぶってよ!」

「千昭がガキなだけだろ」

「んだと!!」

二人は今にも殴り合いでもしそうな勢いだ。


まずい…なんとかしないと…


こんな『私のために争わないで』的な状況に、まさか自分がなるなんて思いもしなかった。

しかしこの2人の争いは、意外な方向へと進んでいった。

「巧介、そこまで言うならどっちが誠のことに詳しいか勝負だ!!」

「あぁ良いぞ」

「え?」

なんと言うか…

平和に解決しそうで良かったものの、なんて恥ずかしい勝負をするんだこの2人は。

「誠が審判な」

「え、あ、うん」

巧介に言われ、流されて思わずうんと言ってしまった。

いや俺のことならそりゃ俺が一番詳しいし、当然っちゃ当然なんどけど…

「おし、じゃあ俺からな!誠の身長は?」

「161。ちなみに体重は48キロな。合ってるだろ?」

「た、多分…」

正直身長や体重なんて暫く計ってないし、ほんとに合ってるかは微妙だがまぁそんなとこだろう。

「クソッ、知ってたか…」

「当たり前だ。簡単過ぎるぞ。じゃあ次は俺だ。誠の嫌いな食べ物を3つ答えろ」

「楽勝楽勝~。きゅうりと生の青魚、あとは冷たいトマトだ。ちなみに、ミニトマトは好きじゃねぇけど食えるし、ケチャップは好きだ。合ってるだろ?」

俺の方を見て聞いてくる千昭に、なんでそこまで覚えてるんだと驚きながらも、正解だと頭を縦に振った。

「おっしゃ!!」

「この程度で調子に乗るな。こんなこと知ってて当然だろ」

ごめん巧介。

巧介のも千昭のも、俺3つも答えられる自信は無い。

あとなんか把握されてる感じが若干怖かった。

「じゃあ問題だ。誠は……」

その後も、俺の口癖やら持ってる服の数やらどこまで知ってるんだと恐怖するようなことまで二人が知っていて、中でも足のサイズを靴のブランドごとに言われた時にはこいつらストーカーなんじゃないかと本気で思った。

「クソ…流石巧介…」

「千昭もよく知ってるじゃねぇか」

そして謎にお互いを認め合っていて、怖いだけだしもう俺はここにいなくても良いんじゃないかと感じる。

「おし、じゃあこれが最後だ!!誠の性癖は?」

「はっ!?!?」

千昭の言った問題に驚き思わず大きな声が出てしまう。

「簡単だ。手袋とくすぐりだろ」

「はぁあああああっ!?!?!?!?」

そして巧介の答えにもっと大きな声が出た。


なんで知ってんだよ!!!!!


「くっそぉぉおっ!!お前も知ってたのかよ!!」

「当然だ」

「ななななななんで知ってんだよ!!!!!!」

自分の性癖を二人に知られていたことに驚き過ぎて、思わず認めるような発言をしてしまった。

でもほんとになんで知ってんだこいつら…

「いや、だって誠のツブヤイターのお気に入り、手袋とかくすぐりばっかじゃん」

「それに…ほら。このAVも思いっきり性癖のだろ」

「!?!?!?!?!?」

千昭が見せてきたのは、オカズを集める用の俺の裏垢。

勿論誰にも教えていないアカウントだ。

そして巧介が出してきたのは、自分だけが知ってるはずのAVの隠し場所にしまってあったAVだった。

「す、ストーカー!!!!!」

「ははっ、巧介、ストーカーだってよ」

「いやお前のことだろ」

「どっちもだよ!!」

もう訳が分からない。

どうしてこいつらは俺の秘密を知ってるんだよ!!


確かに俺は二人の言う通り、手袋とくすぐりが好きと言うアブノーマルな癖を持っていた。

そのきっかけは何を隠そうこの二人のせいなのだが、それでもそれがバレないようにずっと来ていたはずなのに…


まだ俺がオナニーなんて知らない純粋だった頃のことだ。

俺の小学校では高学年になると運動会でダンスを披露するのが恒例だった。

ダンスと言ってもお遊戯に近いのだが、その時に男はタキシード、女はドレスを着て踊ることになっており、その衣装合わせが学校であったのだ。

その時から背の高かった二人がそのタキシードを身に纏った姿はが、めちゃくちゃかっこ良かったのを鮮明に覚えている。

タキシードの衣装に合わせて白い手袋も嵌めるのだが、俺は初めて嵌めるナイロンの白手袋になんだか手がモゾモゾして変な気分になっていた。

思えばその時から既に手袋に対して無意識に何かを感じていたのかもしれない。

当然二人もそれを嵌める訳で…

二人のタキシードに白い手袋を嵌めた姿に一人でドキドキしていた。

衣装合わせの時間は人数が多いせいで空き時間が多く、俺らは三人でジャンケンをして負けた人が罰ゲームを受ける遊びをして

暇をつぶしていた。

罰ゲームの内容は、最初は誰かのモノマネをしたり校歌を歌ったりと平凡なものが多かった。

しかし俺がジャンケンに負けて、千昭が罰ゲームを決める役になった時、俺の性癖を歪ませる出来事が起こったのだ。


「10分間くすぐられる」


千昭の提案した罰ゲームの内容はこうだった。

俺は嫌だと抵抗したが、なぜかその時は巧介も乗り気で、笑い声が響くのを考慮して音楽室にまで移動してその罰ゲームを実施したのだ。

くすぐったさに俺が暴れるのも関係なく、二人の手は俺の身体を這いまわってくすぐった。

その滑らかな手袋の感触から起こるくすぐったさに笑い転げ、そんな俺の姿を見て二人は段々調子に乗って更に色んなところをくすぐり始める。

首、腋、腹、太腿…そして更に千昭は俺の性器にまで手を伸ばしてくすぐってきたのだ。

性器へのくすぐりはくすぐったいのに変に気持ち良くて、初めての感覚に俺は恥ずかしくなって逃げようと暴れたが、身体が小さかったせいで二人相手ではそれも叶わなかった。

結果、俺は射精はしなかったものの、ここで初めて絶頂を経験してしまったのだ。

身体がビクビクと震えながら初めて得た性的な快感に、俺は訳が分からなくて思わず泣いてしまった。

流石にやり過ぎたと思ったのか、その後の二人は妙に優しかったのを覚えている。


それから暫く経ち、性の知識を得てオナニーと言う行為を知った時のことだ。

俺が最初にオカズにしたのは、あの時二人からくすぐられた思い出だった。

そしてそれは徐々に手袋、くすぐりへの性的興味へ変わっていき、今では立派な俺の性癖へと昇格したと言う訳だ。


まさかこの癖が二人にバレているとは…


俺はバレていた恥ずかしさに二人の顔が見れず、顔に手を当てて下を向いた。

「おいおい、別に知られてたって別に良いじゃねぇか」

「そうだぞ。俺達だって今知った訳じゃねぇし、今更と言うか…」

「うっさい!!」

無神経な二人に腹が立って思わず大きい声が出てしまう。

「それに付き合うことになったら、そういうこともする訳だしよ」

「性癖知ってた方が丁度良いじゃねぇか。その方が誠の好きなことしてやれるしよ」

「そうだよ。誠がくすぐって欲しいってならいくらでもしてやるぞ」

「手袋だって全然嵌めるし」

「っっ!!!!!」

二人の言葉に顔から火が出る程恥ずかしくなる。

確かに性癖を知っていた方がそう言う利点はあるのかもしれないが、そんなこと頼むことなんて恥ずかし過ぎてできるはずがない。

「あ、良いこと考えた」

顔の火照りを少しでも冷まそうと顔を仰いでいると、千昭が何かを思いついたように言う。


「くすぐって誠を満足させた方が付き合うってのはどうだ?」




続きは6月25日に他プランでも公開予定

現在タバコプランにて先行公開中

全文約18200文字

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