【男→男小説】『匂いに染まる』【靴下、素足匂い責め】 (Pixiv Fanbox)
Content
※リクエスト作品
「俺は…篠崎の臭い足が大好きです…嗅がせてください…」
「はははっ、そんなに頼まれたら仕方ないですねぇ…じゃあ、はい」
その蒸れて臭そうな大きい足を、俺に差し出すように持ち上げた。
俺は篠崎の足の乗る机へと近付き、薄汚れて変色した白のスクールソックスを履いた、臭そうなその足を手に持つ。
じっとりと汗で蒸れてるせいで湿った靴下の感触と、ずっしりとした重さが手にのしかかる。
これから嗅ぐのが嫌過ぎて思わず顔が引きつりながらも、意を決して俺はその汚く臭そうな足裏に顔を近づけた。
■■■■■■■■■■■■■■■
平和だった日常は、ある日突然崩れてしまうことがある。
「今日からよろしくお願いします。先輩」
そいつが俺の通う高校に転校して来てから、俺の学生生活は徐々に壊れて行ってしまった。
夕飯の時に親父と話した時のことだった。
「今日さ、1年に転校生が来たみたいで、バスケ部の見学に来てたんだよ」
「あぁ、蒼は部長やってんだっけか?」
「そぉそぉ。でさ、なんか俺のこと知ってるみたいでさ、なんかいきなり話しかけて来たんだよなぁ」
俺は自分が部長を務める学校のバスケ部に来た、変な転校生の話をした。
「へぇ~。どんな子なんだ?」
「なんかザ・美形って感じの品の良い感じの奴。背も高いし、女バスの奴らがキャーキャー言ってたよ。まぁ背が高い奴が入るのはバスケ部にとってありがたいけどさ」
確かにイケメンだったが、俺はそいつになんだか裏がありそうな黒い雰囲気を感じていた。
「ふぅん。で、なんて話しかけて来たんだよ」
「なんか、『小泉先輩ですよね?俺、篠崎です』って。訳分かんねぇよなぁ。俺こんなイケメンの知り合いなんていねぇのにさ」
「篠崎…」
親父が篠崎の名前を聞いた瞬間、食事の手を止め顔を顰めた。
「ん?知ってんのか?」
「あぁ、いや、なんでもないよ。まさかな…」
語尾を濁すような言い方が少し気になったが、親父がこういう時は聞いても答えてくれないことが多いため、俺は諦めて飯を食い進めた。
これが親父の杞憂で済めばどんなに良かったことか…
そして数日後、篠崎がバスケ部に正式に加入することが決まった。
「みんな、今日から新しい部員が入ることになった。じゃあ、簡単に自己紹介してくれるか?」
俺が篠崎に促すと、笑顔で頷き話し出す。
「1年の篠崎蓮と言います。親の都合でこの時期ですが転校して来ました。バスケは中学の頃に少しやってたぐらいなので、皆さんにご迷惑をお掛けしないように頑張りたいと思います。よろしくお願いします」
皆が一斉に拍手をする。
そこまで強くないうちのバスケ部に、身長が高い奴が入るのだから当然だ。
しかも多少経験もあるというのも大きい。
「早速だが、今日から篠崎も練習に加わるから、みんな色々フォローしてやるように」
「「「はい!!」」」
みんなの威勢の良い返事を聞き、篠崎の方を見ると、何故かじっと俺の方を笑顔で見ていた。
なんだよ気持ち悪ぃな…
ミーティングが終わり、一旦篠崎には練習に混じってもらう前に、俺が部室で部の決まりや場所を色々と教えることになっていた。
「まずは部の決まりとして、1年が基本的には最初に来て部室を開けて、コートの掃除やボールの準備をすることになってる」
「ふ~ん」
「部室の鍵は第一職員室な。借りる時は必ず誰か教師に言うんだぞ」
「へぇ~」
話を聞いてるのか聞いてないのか分からない態度に、少し苛立ちを感じたが、まだ転校して間もないと言うことで大目に見ることにする。
「じゃあ次は倉庫の場所を…」
「ねぇ、もう良いよ。俺転校初日に学校案内して貰ってるし、場所は分かってるから」
「おい、先輩に向かってタメ口は失礼だぞ」
ダルそうな態度な上にタメ口で言われ、流石に注意をした。
すると、明らかに不機嫌な顔になった篠崎。
「あっ、そっすか。すいませーん」
「……」
もう良いやと俺は部の説明を続けるが、篠崎はその後もやる気のない返事を繰り返すだけだった。
「おーい、小泉。手伝うことあるか?」
いい加減怒ろうかと思った時、副部長である俺と同じ学年の佐野が部室へと入ってきた。
「佐野…ちょっとこいつが…」
「佐野先輩お疲れ様です!今部長に色々教わってたんですけど、俺が覚えが悪くて部長に色々迷惑を掛けてしまってたんですよ…」
俺の言葉を遮るように篠崎が話し始めた。
「そうなのか?」
「い、いや…そういう訳じゃ…」
何て答えるべきか迷っていると、佐野は篠崎に興味を持ったらしく、話しかけていた。
「篠崎だっけ?もうこの学校には慣れたか?」
「少しずつですが…皆さんが優しくしてくれるので助かってます!」
「そかそか。バスケ部は良い奴多いから安心しろよ~。部長の小泉も優しい奴だしな」
「はい!」
「なんだ良い子そうじゃん。てっきりイケメンだからもっと絡みにくい奴かと思ってたよ」
「いやいや、俺よりも小泉先輩と佐野先輩の方がカッコいいですよ」
「お前に言われると若干嫌味だなぁ~」
「いやこれ本心ですからね!」
「はははっ、ありがとな~。まぁこの子なら俺の出る幕も無さそうだな。小泉頑張れよ~」
「え、ちょ…」
佐野は笑いながら部室を出て行ってしまった。
篠崎の方を見ると、さっきと明らかに態度が違い、またやる気のない態度で机に座っていた。
「ってか、佐野先輩に何言おうとしたんすか。俺のイメージ崩れるんで、止めてくれます?」
「お、お前…!!」
俺とそれ以外で態度の違う篠崎に、怒りが爆発しそうになったが、さっきの佐野のこともあり、今怒ったら俺が悪いことになりかねないと、なんとか冷静に考えて落ち着く。
「先輩ってほんとにバスケできるんすか?なんか身長もあんま大きくねぇし…部長としてもどうなんすかね。優しいだけで威厳をあんま感じないっつーか」
「おい、いい加減にしろよお前!さっきからなんなんだよその口の利き方はよ!!」
思わず大きい声を出した瞬間、篠崎は口元を歪めて笑った。
ドタドタと部室に走って来る足音がしたかと思うと、篠崎は俺の目の前で土下座をし始める。
しまったと思った時にはもう遅く、部室に駆けこんできた他の部員達に、俺の目の前で土下座している篠崎の姿が見られてしまったのだ。
「おい、小泉お前何やってんだよ!」
佐野が驚いた顔で俺に寄ってくる。
「ち、違う!こいつが勝手に土下座を…」
「おい、篠崎、そうなのか?」
佐野に言われ、顔を上げた篠崎の目には、涙が流れていた。
嘘だろ…
「俺はただ、メモ取りたいからもう一度部のルールを教えて欲しいって言っただけで…そしたら今まで何を聞いてたんだって怒り出して…」
泣きながら言う篠崎を、心配そうに見ている他の部員達。
「違う!俺はそんなこと言ってない!」
「倉庫の場所だって、教えて欲しいって何度言っても、もう初日に案内されてるだろって教えてくれなくて…」
「そ、それはお前が案内を断ったんだろ!」
「もう良い!小泉、いくらなんでも泣くまで言うことないだろ。どっちの言ったことが事実かはわかんねぇけど、お前が怒鳴ったことは事実だろ。まだ転校してきたばっかの奴なんだから、少しは大目に見てやれよ」
佐野に諭すように言われ、怒りのあまり殴りそうになった。
「俺は間違ってない!!」
「もう良いって言っただろ!この話は終わりだ。篠崎は俺が後は面倒見るから、お前は今日は帰って少し頭冷やして来い」
「………」
これ以上言っても状況が悪くなるだけだと察し、俺は黙って部室を後にした。
なんなんだよ畜生が!!
ほんと腹が立つ。
全部悪いのは篠崎じゃねぇか!!
なんで誰も俺を信用しねぇんだよ…
『威厳をあんま感じない』
篠崎が俺を煽るために言った台詞が、妙に心をえぐった。
「おい蒼」
家に帰り、俺が夕飯も食べずに部屋でふてくされていると、仕事から帰って来た親父がドアの前で呼ぶ声が聞こえた。
「何?」
「入って良いか?」
「良いけど」
中に入ってきた親父は、なぜか血の気が引いているような顔をしていた。
「前に、バスケ部に篠崎って子が見学に来たって言ったよな」
「言ったけど」
名前を聞いただけで再び腹が立ってきた。
けどなんで親父からまたその名前が?
「お前、その子を苛めてるのか?」
「はぁ!?!?」
突然の親父の言葉に、俺は思わず大声を出す。
「苛めてねぇよ!!むしろ今日そいつのせいで俺は酷い目にあったんだぞ!?」
「そうか…」
親父は神妙そうな顔で話し出す。
「事の真相はどっちでも良いんだ。その篠崎って子はな、俺の会社の人事部長の子供なんだよ」
「だから何だって言うんだよ」
「今日な、篠崎部長に呼び出されて、転勤の話をされたんだよ」
「え、親父、転勤すんの?」
「いや、まだしない。ただその後に言われたんだよ。息子さんにどういう教育をしているんだと」
「はぁ?」
逆に聞きたいのは俺の方だよ。
くっそ…篠崎の奴め…自分の親に嘘の報告しやがったな…
「篠崎さんはな、最近うちの支社に転勤して来たんだが、良い評判を全く聞かないんだ。好き嫌いで人を判断するし、気に入らないとすぐに地方の何もないような場所に転勤させられるって噂だ」
「何が言いたいんだよ」
「篠崎さんの息子さんに、絶対に逆らわないで、良い関係でいて欲しい」
「はぁ!?!?」
再び大声が出てしまった。
「なんでだよ!!あいつのせいで俺がどんな目にあったと思ってんだよ!!」
「蒼、お前は嘘を付くような人間じゃないし、ましてや苛めをするような人間じゃないのは分かってる。だからきっと理不尽な目にあったんだろう」
今まで見たことも無いような真剣な目で言う父親に、思わず言葉を飲み込んだ。
「だけど、耐えて欲しい。もし俺が転勤になったら、お前等だって今の学校に通えなくなるし、それに、変な場所に転勤させられたら給料だってどうなるか分からない。最悪辞職だってする可能性もある。そうなった時、お前を大学に行かせてやることも難しくなるし、場合によっては今の学校も卒業させられるか…」
「お、おいおい…勘弁してくれよ…もう行きたい大学だって決めてるし、せっかくここまできて卒業できないなんて…」
思い描いていた明るい未来が、突然無くなってしまうかもしれないという恐怖。
それは思った以上に俺の心に効いた。
「じゃあ篠崎さんの息子さんとは仲良くやってくれ。絶対に怒ったり、逆らったりしないで欲しい」
「だけど…」
あの理不尽な行為をされた篠崎と、上手くやっていける自信はなかった。
「蒼、頼む…耐えてくれ…」
親父が俺に頭を下げた。
「やめろよ…分かったよ…」
自信は無かったが、息子の俺にまで頭を下げて必死に頼む親父の姿を見て、その頼みを断るなんてこと、俺にはできなかった。
次の日、俺は部活が始まる前に、篠崎を部室に呼び出した。
完全に俺は悪くないと思いながらも、感情的になって怒鳴ったのは俺だ。
1万歩譲って年上の俺が大人になるべきだと思い、そのことを謝罪する為だった。
「なんすか。小泉先輩」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、俺を上から見下すように見て篠崎は言う。
「昨日は悪かったよ。怒鳴って」
その態度に再び苛立ちながらも、俺はなんとか謝罪の言葉を口にした。
「ふ~ん。で?」
「は?」
「それだけですか?そんなことを呼び出して言うなんて、小泉先輩も暇なんすね」
「!!!」
わざわざ俺が謝罪までしたと言うのに、舐め腐ったような篠崎の態度に、思わずまた怒鳴りかけた。
「へぇ~、少しは学んだみたいっすね。先輩もバカじゃなかったんだ」
「お前…!!俺のことを嫌ってんのかなんなのか知らねぇけどよ、俺に食って掛かってくんのやめろよ」
「別に嫌ってないっすよ?」
「じゃあなんで俺にだけ態度違ぇんだよ」
「ん~…まぁ言っても理解できないと思いますよ?そんなことより、先輩、今日タオルって持ってきてます?」
「は?」
回答をはぐらかされ、訳の分からないことを急に言われる。
「タオルですよタオル。汗拭くようの」
「持ってきてるけど、それがどうかしたんだよ」
「ちょっと貸してくれません?」
「なんでだよ」
「良いから黙って貸せよ。早くしねぇとお前の親父が左遷されんぞ」
「!?てめぇ…」
やはり昨日の親父の件は篠崎のせいだったのか。
「お前は俺に従ってれば良いんだよ。ほら、さっさとタオル出せよ」
「……っ」
俺は仕方なくカバンから白いタオルを出し、篠崎の方へと投げた。
それを受け取った篠崎は、ベンチにそれを置き、何故か上履きを脱ぎ始めた。
「今日暑かったっすよねぇ。ほら。靴下が汗でびっしょ」
白の学校指定のソックスを履いた足をこちらに向けて言う。
うす汚れた足裏は大きく、見るからに蒸れており、ここまで匂ってくるのではと思う程に臭そうだった。
そしてその汚れたソックスまで脱ぎ、現れたのは、篠崎の身長と釣り合う程に大きな足裏。
平が大きく、指一本一本が太く長くどっしりとした大足だった。
「見てくださいよ。今日暑かったんで体育を素足でやったんすよ。だから足裏真っ黒」
篠崎の言う通り、その大足の裏は黒く汚れ、ねっとりした汗で張り付いた靴下のカスがこびり付いていた。
もう片方の足も同じように素足になり、両方の足を俺に見せつけると、渡したタオルをなぜか床に敷いた。
「お、おい…」
嫌な予感がして声を掛けた時には既に遅く、篠崎はその大きな両足で、俺のタオルを踏んだのだ。
「てめぇ!!」
「黙ってみてろよ。次なんか言ったらお前この学校いれなくすんぞ」
冷たい目をして言う篠崎に、昨日親父に言われたことを思い出す。
『絶対に逆らうな』
俺は煮えくり返りそうな怒りを耐え、グッと手を握って耐えた。
篠崎が踏んだタオルから足を上げると、その汗で足裏に張り付いて少し持ち上がり、床に再び落ちた。
真っ白だったタオルには、大きな篠崎の足型が黒く浮き上がっている。
「あ、良い模様になったじゃないすか」
もう片方の足も同じように上げると、タオルには二つの足型が模様のようにできていた。
その調子で篠崎は、タオルを何度も何度も踏みつけ、真っ白だったタオルを足型で黒くしていく。
グチャグチャになっていくタオルを、俺はただ何も言わずに見ているしかなかった。
「うん、良い感じ良い感じ」
そう言って床のタオルを拾うと、次にそのタオルで、自身の足指を拭き始める。
汗で蒸れてふやけてるが太く逞しい足指を。
「ずっとここが蒸れてて気持ち悪かったんすよねぇ」
そう言って、足の親指の付け根の指の股をグっと開き、その汗と汚れが溜まった部分にタオルを挟み、ゴシゴシと擦るように拭いていった。
一か所拭くと、タオルの場所を変え、また違う指の股を。
両足を丁寧に拭き、最後に汗の浮く平の部分をタオル全体を使って拭くと、満足したように俺を見た。
「はい先輩。今日はこのタオルを使ってくださいね」
そう言って、タオルを拾って俺の方へと投げて来る。
思わず受け取ってしまったタオルは、足型で汚れ、足汗を吸ったせいで湿っていた。
手に持っただけで鼻まで届くほどに臭い、篠崎の足の匂いを放つタオル。
これを…使えだと?
「ふざけんなよ篠崎…誰がこんな汚ぇタオル使うかよ!!」
「へぇ~。別に使いたくなきゃ使わなくても良いっすよ。使わなかったら、俺が用意したタオルを先輩が使ってくれなかったって親父に言うだけですし」
「は?」
「小泉先輩の高校生活は、今月いっぱいで卒業になるかもしんないすねぇ」
「っ!!」
この篠崎の足の匂いにまみれたタオルを使うのなんて御免だが、卒業できないのだけは絶対に嫌だった。
クソが…なんでこんな臭ぇタオルを…
「あ、そうだ。今日はそれを首に巻いたまま部活するってのはどうすかね?」
「いい加減にしろよ!」
「そしたら、親父に先輩のこと良く伝えるんですけどねぇ。ねぇ先輩。先輩の親父はどっちを望むと思います?先輩がタオルを巻くか、巻かないで捨てるか…俺は
別にどっちでも良いんですよ?」
「クソが…」
昨日の親父の様子を見てれば分かる。
親父はきっとこんな汚ぇタオルでも、そのぐらい巻けと言うだろう。
目先の屈辱からの逃避よりも、大きい目で見た時の成功を見ろと。
「で、どうします?」
またあのニヤニヤと笑う嫌な笑顔で俺を見て言う篠崎。
「わかったよ!巻けば良いんだろ、巻けば」
俺はそう返すことしかできなかった。
臭い…臭い…
「よし、パス!」
「行け!篠崎!」
コートでは3on3での実践練習をしている。
佐野と篠崎は同じチームで俺は敵側だったが、あのタオルを首に巻いたまま試合に挑んでいた。
首でふわっとタオルが弾むと、それに乗って篠崎の足の嫌な匂いが鼻まで運ばれてくる。
それが臭くて臭くて仕方なかった。
「よっしゃぁぁああっ!」
ゴールが決まり、佐野と篠崎がパンッと手を合わせ、喜び合っている中、俺はタオルから発する篠崎の足の匂いと戦っていた。
持前の身長と、運動センスの良さで、元々あまり強くない部活だったせいもあるが、既に篠崎はレギュラー陣と張り合うようになっていた。
中学の頃からバスケをやっていたと言うのは本当らしい。
「おい、なんか小泉調子悪くね?」
佐野が俺を気にするように声を掛けて来る。
このタオルが動く度に肌に触れ、鼻を襲う篠崎の臭い足の匂いに気分が悪くなっていたのと、近付き過ぎるとタオルの匂いが誰かにバレるんじゃないかという怖さで上手く動けなかったのだ。
「すまん。ちょっと体調悪くて…」
「大丈夫ですか?なんだか顔色も良くないですけど…」
篠崎が白々しく心配をした素振りを見せて来る。
くそ野郎が…誰のせいだと思ってんだよ…
「大丈夫か?無理そうなら休めよ?それにしても篠崎、お前ほんとすげぇな!」
「いや、あそこでパスをくれた佐野先輩が良かったんですよ」
「はははっ、お前が丁度良い位置取りしたからだろ!背が高いとパス通りやすいし良いよなぁ。この調子ならすぐレギュラー取れるかもな」
「ほんとですか!?頑張りますね!」
佐野と篠崎のやり取りにもなんだがモヤモヤした。
あいつが来るまでは、俺と佐野の息のあったプレーが映えていたはずなのに、なんとなく居場所を取られたような気までしてくる。
ダラダラと顔を流れて来る汗を、考え事をしていたせいでタオルで拭いてしまった。
「んんっ!!」
今まで漂ってきただけの匂いとは違い、直接嗅いだタオルは予想以上に強烈だった。
鼻にこびりつくようなねっとりとした足の匂い。
あまりの臭さに吐き気すらした。
すぐにタオルを顔から離したが、顔にその匂いが付いてしまったようで、息を吸う度にその臭い匂いが鼻に流れ込んでくる。
「どうした?大丈夫か?」
様子がおかしい俺を気にして、佐野が近づいてくるのを、俺は手で制して言った。
「すまん、ちょっと気分悪いから顔洗ってくる!」
匂いに気付かれないように、走って水道へと向かう。
そこで手洗いようの石鹸で顔を洗い、なんとか顔からは匂いが取れた。
「はぁ…」
なんとか落ち着いて後ろを振り返ると、俺を笑顔で見ている篠崎がいた。
「お前…」
「あ~あ、顔洗っちゃったんすか?せっかく俺の足の匂いが顔に付いたのに」
「当たり前だろ!あんな臭ぇの…」
「てっきり自分からタオルで顔拭いたから、足の匂いが好きになったのかと思ったんすけど」
「誰が好きになるかよ!!」
こんな爽やかな見た目からは想像も付かない程の激臭だ。
望んで嗅ぎたい奴なんているはずない。
「ちゃんと俺の臭ぇ足の匂い、覚えてくださいよ?」
「は?」
「先輩は犬なんすから、主人の匂い覚えるのなんて当たり前でしょ」
「俺がお前の犬にいつなったって言うんだよ!」
「ははっ、まぁ良いっすよ。その内嫌でも覚えるでしょーし…」
含んだような言い方をして篠崎は去っていった。
嫌でも覚えるってどういうことだよ…
その台詞の意味を、俺は次の日から痛感することになる。
「先輩、はい」
「ん?」
篠崎がわざわざ俺の教室にまで来て渡してきたのは、俺が昨日失くしたと思っていたシャーペンだった。
「は?なんでお前がこれを…」
受け取った瞬間、なにやら湿っているそのペンに嫌な予感がした。
「昨日からずっと、俺の靴下の中であっためておきましたよ。歩く時とか大変だったんすから、ちゃーんと使ってくださいよ?」
「なっ!!」
思わず机にペンを離すと、スッと落ちる前に拾われ、俺の手ごと篠崎の大きい手に包まれ、ペンを握らされた。
「俺の足の匂いが、持ち手に染み込んでますからねぇ」
篠崎の手がギュッと力がこもって少し痛い。
「ゴムの部分って、結構臭いが染み込むんですよ?これで授業中も俺の足の匂いが嗅げますね」
「誰がっ…」
誰がこんなの使うかと大声を出しそうになった時、ふと俺らがクラスの女達に注目されていることに気付く。
恐らく顔が良い篠崎を初めて見た連中が色めき合っているのだろう。
「せーんぱい」
周りを意識した爽やかな笑顔のまま、いきなり周りに聞こえるように話し出す。
「俺シャーペン壊れちゃって、まだ借りれる人がいないんで、貸して貰っても良いですか?」
「は?お前何言って…」
「後輩君でしょ?貸してあげなさいよ~」
少し離れたところにいた、クラスの女子の一人が俺に言う。
「えっ…」
「借りても良いですか?」
再び篠崎が俺に聞いてくるが、この状況で断ることなんてできない。
「あ、あぁ…」
「ありがとうございます!ほんと助かります先輩!」
すると、篠崎は机から半分出ていた筆箱を勝手に取り、中からシャーペンを取り出した。
「じゃあ借りて来ますね!」
「あ、ちょっ、それは」
「また臭くして返しますね」
俺にしか聞こえない声で囁き、篠崎は笑顔で去って行った。
ここであることに気付く。
貸したせいで、今手に握っている篠崎が靴下の中で温めていたシャーペンしかないことに。
くそ…これが狙いかよ。
手を開くと、なんだかネトつく液が付いたシャーペンがある。
「うっ…」
開いた瞬間、昨日散々嗅いだあの篠崎の足の匂いがした。
そこで授業開始のベルが鳴る。
シャーペンを洗いに行く時間はもうない。
ここまで時間を計算してたのかよ…
仕方なく俺はその臭いシャーペンを使いながら、授業を受けるはめになってしまった。
篠崎の足の匂いでの嫌がらせは、それだけでは無かった。
ある時は体育の間に脱いでいた制服のシャツが、いつの間にか篠崎の足型が付けられ、足の匂いを染み込まされていた。
替えのシャツなど持ってきている訳もなく、その日は運悪く校則のチェックが厳しくなる期間だったため、そのシャツを着ない訳にいかない。
自分の汗ではなく、篠崎の足汗が染み込んだシャツは、鼻がおかしくなるぐらい臭かった。
授業中も昼食時も一日中篠崎の臭い足の匂いに包まれての生活は地獄だった。
なるべく人に近付かず、昼の弁当も一人で食べ、放課後の部活でジャージに着替えるまでなんとが乗り切ったが、いつの間にかそのジャージにすら足の匂いが染み込まされていたのは流石にまいった。
部活中も、その篠崎の臭い足の匂いを堪能する羽目になってしまったのだから。
臭い足の匂いが鼻に届く度に、何度も篠崎をぶん殴ってやりたいと思ったが、親父の『耐えてくれ』の言葉が頭を過り、なんとか我慢して来た。
タオルから始まり、シャーペン、シャツ、ジャージ…毎日毎日何かしらに篠崎は足の匂いを染み込ませてくる。
バカみたいに臭いそれは、何度嗅いでも慣れることはなく、俺を都度苦しめていった。
そしてある時、俺の我慢の限界に達する出来事が起こる。
いつの間にか抜き取られたのか、俺のハンカチを足型だらけにされ、恐ろしく臭い代物にされてしまったのだ。
手を拭こうとハンカチを取り出した時、あまりの臭さに驚いた。
普通のハンカチなら我慢できたかもしれない。
だけどこのハンカチは、俺がバスケ部の部長になる時に先代からお祝いで貰った大切な物。
それをあいつは踏みにじったのだ。
「てめぇ…今日の放課後俺の教室に来いよ…」
俺は篠崎の教室まで行き、あいつにだけに聞こえるように言った。
「うわぁ、まさか愛の告白ですか?」
茶化すように言う篠崎に、更に苛立ちを覚え、キッと睨みつける。
「はいはい分かってますよ~っと。放課後行けば良いんでしょ」
「必ず来いよ」
俺はそれだけ言って教室を出た。
今日は俺が日直のため、教室の鍵を閉めるのは俺だ。
それを利用して、誰も入って来れない状況にすれば、この前のようにはならないはず。
そこで決着をつけてやる…
放課後。
計画通り、クラスの連中が帰ったり部活に向かったあと、俺は一人教室に残っていた。
ガラガラとドアを開く音がし、音の方を見ると、そこには篠崎がいた。
「ちゃんと来てあげましたよ、小泉先輩」
相変わらず篠崎はニヤニヤと笑っている。
篠崎が中に入ると、内側から鍵をかけ、外からは入れないようにした。
隣のクラスも確認したが、既に鍵が閉まっていたし、少しぐらい叫ばれても人は来ないはずだ。
「俺を呼び出してどうするつもりっすか?俺の足の匂いが直接嗅ぎたくなっちゃったとか?」
「ふざけんな!!てめぇのせいで俺がどんな目にあったと思ってんだ!!」
篠崎の臭い足の匂いで苦しんだ日々が走馬灯のように浮かぶ。
「俺の匂いに囲まれて幸せだったっしょ?」
「いい加減にしろよ…なんの恨みがあって俺にこんな…」
今考えればおかしな話だ。
父親同士が会社の上司と部下だからと言って、それが俺を苛めるような理由にはならない。
「俺がお前に何をしたんだよ!なんでお前はこんな…」
「だから先輩に言ったって理解できないですって」
「言えよ!!なんであんな嫌がらせをすんだよ!!」
「はぁ…」
篠崎がため息をついたと思ったら、ニヤニヤしていた顔が、急に歪んだ笑いへと変わった。
「俺、先輩のことがだーい好きなんですよ」
「……は?」
篠崎の口から出て来たのは意外な言葉だった。
「好きな子程支配したくなっちゃうんですよねぇ…」
「ちょ、ちょっと待て!お前何言って…」
「一目惚れってやつですよ~。俺はただ、先輩を支配したかっただけです」
突拍子のないこと過ぎて理解ができない。
「先輩は、俺だけ見てれば良いんすよ。誰とも話さないで、誰とも仲良くならないで、一人孤立して、先輩の近くには俺だけがいれば良いんです。俺以外の奴が先輩に近付くなんて嫌なんすよ」
歪んでる…
笑顔でこんなことを話す篠崎に、僅かに恐怖心が芽生えて来た。
「そ、それと足の匂いと何が関係あんだよ」
「俺の足のくっせぇ匂い付けたままなら、先輩は匂い気にして誰にも近づこうとしないっしょ?一種のマーキングってやつっすよ。それに…」
篠崎は歪んだ笑顔を更に歪ませた。
「なぁんか興奮するんすよねぇ。俺のくっせぇ足の匂いを嗅がせて苦しんでる姿が。俺のいないところでも、先輩は俺の足の匂いに包まれてるって考えるだけでもう…」
ふと目線を下に向けると、篠崎の股間がピクピクと動いているのが見えた。
勃起してんのか!?
「意味…わかんねぇよ…」
「だ~から理解できないって言ったっしょ?で、先輩」
篠崎は俺の近くの椅子に座り、上履きを脱ぐと、ドカっと足を机に置いた。
白のソックスにドス黒く足型が浮かび、見るからに臭そうな篠崎の大きな足裏を目の前に出される。
「知ってます?先輩の親父さん、会社で今おっきなプロジェクト任されてるんすよ。親父さんがずっと温めてきた企画がやっと通って、リーダーとして今やってるんです。仕事できるんすねぇ」
「そ、それがなんだって言うんだよ…」
親父の仕事のことはあまり詳しくは知らないが、それなりの地位にいるという話は母親から聞いたことがある。
「今親父さんが僻地に転勤にでもなったらどうなるでしょうねぇ。勿論プロジェクトのリーダーは他の人になって続くだけでしょうけど、親父さんのメンタルはどうなるか…」
その言葉であんなに父親が必死に俺に頼んできていた理由が分かった。
僻地に行くことよりも、自分が大切にしていたプロジェクトを降ろされるのが嫌だったんだ。
「そうなったら、親父さんもしかしたら…」
俺と同じで根が真っすぐで真面目な親父だ。
そうなったら恐らく…
学校を中退どころでは済まなそうな話に、俺はここに篠崎を呼び出したことを後悔した。
「さて、呼び出しくらったって親父に連絡しようかなっと」
ジャケットからスマホを取り出し、操作を始める篠崎。
「や、やめてくれ!!」
思わず声が大きくなってしまう。
「は?なんでっすか?俺のこと呼び出して、ぶん殴ってやろうとか思ってたんでしょ?まぁ先輩と俺とじゃ体格差があって無理でしょうけど」
篠崎は、はははっと乾いた笑い声を上げながら、スマホを操作し続けていた。
「やめてくれ…謝るから!頼む…」
「ふぅん…」
そう言いながら目が笑ってない笑顔を向けられ、思わずソクっとした。
「じゃあ先輩。もう一回聞きますね」
篠崎はその臭そうな足を俺の顔の方へと向け、足指をグニグニと動かしながら言った。
「なんで俺をここに呼び出したんですか?」
篠崎の望んでいる答えが分かった。
「篠崎の…足を…直接嗅ぎたかったから…」
言った瞬間、篠崎は歯を見せてにやりと笑う。
僅かにピコンと言う電子音が聞こえた気がした。
「なんだ先輩!やっぱそうだったんすね!いやぁ、先輩がまさか俺のくっせぇ足が嗅ぎたくなったとはなぁ…けど、嗅ぎたいなら頼み方ってもんがありますよね?ちゃんと俺にお願いしないとダメですよ?」
「……くっ……嗅がせてください…」
「何をっすか?」
「篠崎の足を…」
「そんなに直接嗅ぎたくなる程、俺の臭い足が大好きなんすか?」
「大…好きです…」
「じゃあ続けて頼んでください」
「俺は…篠崎の臭い足が大好きです…嗅がせてください…」
「はははっ、そんなに頼まれたら仕方ないですねぇ…じゃあ、はい」
その蒸れて臭そうな大きい足を、俺に差し出すように持ち上げた。
俺は篠崎の足の乗る机へと近付き、薄汚れて変色した白のスクールソックスを履いた、臭そうなその足を手に持つ。
じっとりと汗で蒸れてるせいで湿った靴下の感触と、ずっしりとした重さが手にのしかかる。
これから嗅ぐのが嫌過ぎて思わず顔が引きつりながらも、意を決して俺はその汚く臭そうな足裏に顔を近づけた。
「ちゃんと鼻を足裏にくっつけるんすよ」
「っ…!!」
この足に鼻を…
靴下越しにグニグニと誘うように動く足指に嫌気がさした。
仕方なく鼻先を足の平へと付ける。
じっとりと湿り気を帯びたザラつく生地の嫌な感触がする。
嫌だ…嗅ぎたくない…
そんな思いを振り払うように目を瞑り、ほんの少しだけ鼻から息を吸い込んだ。
「うっ!!!ゴホッゴホッ!!」
臭い!!!
思わず顔を背けて咽る程に臭い靴下の足。
ほんの少しだけだと言うのに、タオルやシャツが生易しく感じる程に匂いは濃厚だった。
「何やってんすか?嗅ぎたいって言ったのは先輩ですよ?ほら、早くもっと嗅いでください」
苛立ちのあまり篠崎を睨むが、当の本人はそんな俺を見て嬉しそうにするだけだった。
「次足から鼻を離したら即親父に連絡しますからね」
「っ!!!……わかったよ…」
再び鼻を篠崎の足裏へ持っていき、鼻先だけを付ける。
「そんなんじゃちゃんと嗅げないですよね?ちゃんと鼻の穴を足裏にべったりくっ付けてくださいよ」
「……クソが…」
思わず小さく言葉が漏れる。
「何か文句あるんすか?俺は先輩が嗅ぎたいって言うから嗅がせてあげてるんですよ?俺は今すぐにでも止めても良いんですけどね」
「!!…すいませんでした…」
クソッ…いつかぜってぇ殺す…
俺は鼻先だけでなく、穴が足裏で塞がるようにピッタリとくっつける。
先ほどよりも汗で蒸れた靴下の感触がより鮮明に鼻先に感じた。
気色悪ぃ…
そう思いながらもそのまま再び鼻から息を吸い込む。
「んんんんっ!!!!!!」
さっきとは比べ物にならない程に、濃厚で臭い足独特の匂いが鼻孔の奥まで入ってくる。
くっせぇぇぇええっ!!!
その匂いを身体が拒絶し、顔が離れようとするのを必死に我慢した。
「嗅ぎたくて仕方なかった俺の足の匂いはどうっすか?」
足越しに見えるニヤつく篠崎の顔を今すぐにでも殴ってやりたかった。
なるべく嗅がないように口で息をするが、それでも僅かに鼻から流れ込んでくる匂いは激臭だ。
「んあぁぁっ…おぉぉっ…」
臭ぇ…臭ぇよぉ…なんで俺がこんな奴の足なんて…
後輩のに顔を押し付ける自分に情けなくなる。
「ほらほら、口でばっか息してないで鼻でも吸ってくださいよ。空気の流れで吸ってないの分かるんすからね?」
ぜってぇ殺す、殺す!!
仕方なく再び鼻から息を吸い込む。
「あ"あ"ぁ"ぁ"っ!!!うええぇえっ!!」
臭ぇぇぇぇぇぇええええっ!!
汗が熟成して発酵した納豆のようにネチっこい匂いが、鼻の入り口から最奥までくっつきながら入って行く。
思わず吐き気すらもよおす程の凝縮された濃い足の匂い。
なんでこいつはこんなに足が臭ぇんだよ!!
「ちゃんと顔離さないで偉いじゃないっすか。じゃあ次は、指の根元に鼻押し当ててください」
指の根元。
大きい平に聳え立つ、靴下越しにも分かる程に太く長い篠崎の足指達。
足の匂いが特に濃い場所だ。
ゆっくりと顔を移動させ、足の親指の根元へと到着する。
すると、俺の鼻を摘まむように篠崎が指を動かし、鼻の穴を足の股で塞ぐように挟んできた。
「これで嗅ぎやすくなりましたよね?」
驚いて篠崎の方を見ると、歪んだ顔で笑う篠崎と目が合った。
「ほら、早く吸ってくださいよ」
死ね…
言葉には出さないが内心で思いながら、俺はそのまま鼻で息を吸い込む。
「うぅっ!!!!!!」
あまりの激臭に一瞬頭が真っ白になり、思考が止まる。
そして一気に襲ってくる吐き気。
「お"お"ぉ"お"ぉ"ぉ"っ!!!」
臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い!!!!!!
頭の中が『臭い』の文字でいっぱいになる。
それ程までに篠崎の足指の根元は臭かった。
「はははははっ!!良いっすねその顔!今にも泣きそうな感じがすげぇ良い」
匂いに苦しみ悶える俺を愉快そうに笑う篠崎。
あまりの臭さに、もう殺意よりも辛さの方が勝ってきていた。
「ほらほら、休んでないでもっと嗅いでくださいよ」
グリグリと鼻を足指で擦りながら言う篠崎に、俺はただ従うしかない。
「んんんん"ん"っ!!!んおぉぉぉおっ!!あ"あ"ぁ"ぁ"っ」
吸う度に流れ込む臭過ぎる足の匂いに眩暈すら感じた。
臭ぇ…臭ぇ…なんでこんな…
足の臭さと情けなさに涙が出そうになるのを必死に堪えながら、その臭い匂いを嗅ぎ続けた。
「じゃあそろそろ…」
ようやく終わりかと思った時、篠崎から恐ろしい言葉が飛び出す。
「素足も嗅いで貰いましょうか」
「!!!」
嫌だ…
靴下でこんなに臭いのに、素足なんて…
今すぐ逃げ出してしまいたい気持ちでいっぱいになるが、親父の顔がチラつくせいで足が動かない。
「俺の臭ぇ靴下、先輩の口で脱がしてくださいよ」
「なっ!!」
「なにか文句ありますか?じゃあもう止めますか」
そう言って篠崎がスマホに指を伸ばす。
「わ、分かったから!!」
なんで俺がこんな奴の!!
あまりの屈辱に拳を握りしめながら、篠崎のジャージの裾を口で咥え上に捲る。
そしてうす汚れた靴下の裾を口に咥え、そのままずり下ろしていく。
「ほんと犬みたいっすね!」
そう嬉しそうに言う篠崎の言葉に、苛立ちではなく悲しみを感じる。
なんとか踵まで靴下をさげ、そこからまた口で咥え直して今度は上に持ち上げていく。
口で咥えているせいで、上げる時すらも足の匂いに襲われ、それから逃れるように一気に指先まで靴下を脱がせた。
「よくできました!ご褒美にその靴下は先輩にあげますね!」
咥えていた靴下を机に吐き捨てる。
「そうかよ…」
もう食って掛かる気力なんてなかった。
机の上には靴下の下から現れた篠崎の大足が乗っている。
バランスの取れた配置の立派な足は、一瞬見惚れてしまう程に迫力があったが、すぐにその臭そうな足を嗅ぐしかないと言う現実が俺を襲った。
靴下のカスが汗でこびりつき、嫌でも蒸れて臭いのが分かってしまう。
嫌だ…あんな臭そうな足…
靴下ですらあの匂いなのに、素足なんて想像もしたくない程に臭いだろう。
「じゃあ、先輩。いきなりここ、いっちゃいましょうか」
篠崎が足指を開いて見せながら言った。
さっきも嗅いだ足の股。
ベタつく汗が溜まり、汚れも集中している篠崎の身体で一番臭い場所であろうそこ。
「足指の間に鼻、挟んでくださいね。離したら即連絡っすから気合入れてくださいよ~」
「うっ……」
クパクパと俺を誘うように足指を閉じたり開いたりを繰り返す。
俺はその足指の間に顔を近づけ、じっとりと湿る指の間に鼻を差し込んだ。
グチュッという汗が鼻に付く音が僅かに漏れ、感触の不快感を煽る。
なんとか鼻を挟み込んだものの、目を開ける勇気はなかった。
「早く俺のくせぇとこ嗅いでくださいよ」
言われるがままに、歯を食いしばりながら鼻から息を吸う。
「っっっっっっっっっ!!!!!!!!」
頭がぶっ飛ぶ程の激臭が一気に鼻先から脳天まで駆け巡り、身体中を侵食するように広がっていく。
くっせぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええっ!!!!!!!!!!
あまりの臭さに異物を外に流そうと涙や鼻水が自然と流れていく。
「あ"あ"あ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"っっ!!!!」
呻き声のような低い唸りが意図せず漏れた。
臭すぎて頭がクラクラする。
「はははははっ!!!!良いっすね先輩!!最高っすよ!!あぁ…やっべぇ…すげぇ興奮する…もっと嗅いでくださいよ。ほらほらほらっ!!」
グイグイと足と足指を動かし、もっと嗅げと促してくる。
嫌だ嫌だ嫌だ!!
脳がもう嗅ぐなと警鐘を鳴らす。
「あ"あ"ぁ"ぁ"っ!!もう嫌だぁぁぁっ!!もうやめでぐれぇえええっ!!」
俺はあまりの辛さに泣きながら懇願した。
しかし篠崎はその様子に益々興奮したのか、目をギラギラさせながら言う。
「何言ってんすか先輩。俺は強要なんてしてませんよ?先輩の嗅ぎたいって望みを叶えてるだけです。ほら、俺の声に合わせて吸ってくださいね」
「もう無理ぃぃっ!!嗅ぎだぐないぃっ!!」
「じゃあ嗅がなかったら即連絡ってことで。いきますよ?はい吸って」
なんとか気力を振り絞ってその臭い足の匂いを嗅ぐ。
「お"お"お"ぉ"ぉ"ぉ"お"っ!!!ぐぜぇえぇぇえええっ!!」
匂い兵器のような激臭の足の匂いが、これでもかと言う程に鼻を占拠する。
もう嫌だ。臭い。助けて。臭い。臭い。臭い!!!!
「はい吐いて~、じゃあまた吸って!」
慣れるどころか、興奮して汗をかいているのか、益々臭くなっていく気すらする篠崎の足。
どんなに嫌でも、親父のために俺は鼻から呼吸を続けるしかない。
「あ"あ"ぁ"ぁ"あ"あ"ぁ"ぁ"っ!!!だずげでぇえええっ!!ごべんなざいごべんなざいぃぃっ!!もう許じでぐれぇぇ!!」
「良いから次行きますよ?はいまた吐いて~、吸って!」
「んおぉぉぉぉぉおおおっ!!!」
鼻だけでなく頭まで狂いそうな程の足の匂い。
なんで俺が、なんで俺が!!
理不尽さへの怒りと屈辱でどうにかなってしまいそうだった。
「吐いて~、吸って~、吐いて~、吸って~吸って~吸って~、吐いて~」
「お"お"お"ぉ"ぉ"っ!!あ"ぁ"ぁ"あ"あ"ぁ"ぁ"っ!!じぬぅぅううっ!!ぐざぐでじぬぅぅぅううっ!!!んぎあぁぁぁっ!!」
何度も何度も何度も何度も流れ込む篠崎の臭すぎる足の匂い。
その地獄の時間はこの後も30分程続いた。
「あ"あ"っ…はぁっ…お"ぉ"っ…」
ようやく篠崎の足から解放された俺は、未だに鼻に残す篠崎の足の匂いと戦っていた。
床に突っ伏しながら苦しむ俺に、篠崎がスマホを向けてくる。
「先輩、これ聞いてくださいよ」
スマホの画面を触ると、何やら音声が流れた。
『俺は…篠崎の臭い足が大好きです…嗅がせてください…』
「んんっ…はぁ…これ…は…」
「親父に電話するふりして録音してたんですよ。これをバスケ部のみんなに聞かせたらどうなるんすかねぇ…」
「やめて…くれ…あ"ぁ"っ…」
「はははっ、先輩っ。これからもっともっと仲良くしましょうね」
俺を見て笑う篠崎の整った顔は、まるで悪魔のようだった。
順調に見えた俺の日常。
それはある日突然、音を立てて崩れていったのだ。
END