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Content

「お逃げ下さいー

 モーガン様さえご無事であればー

 必ずや、再び立ち上がれますー」


炎に包まれたアクア王国の北方に位置する、ホレイト領ー。


騎士団長・ジークが、まだ少年、と呼べる年齢の頃ー

その事件は起きたー


闇の帝国軍の強襲により、アクア王国北方のホレイト領ー

ジークの父であるモーガンが統治していた領地が、

壊滅状態に陥ったのだー


炎に包まれる中、兵士は言った。


”モーガン様さえ無事であれば”

兵士たちもー

民たちも、そう言ったー。


民を引き連れてー

ホレイト領を脱出した

少年・ジークと父・モーガン。


だがー。

その先に待っていたのはー

”本当の地獄”


命があれば、やり直せるー?


否ー

故郷を失ったものにー

在るべき場所を失った者に待っている運命はー


冷たく、

残酷だー。


騎士団長・ジークは、それをよく知っているー。


だからこそ、

守るべき者は”アリシア姫”ではなく、

”アクア王国”そのものなのだー。


・・・・・・・・・・・・・・・・


★主要登場人物★


藤枝 和哉(ふじえだ かずや)/アリシア姫

異世界に転生後、女体化。アリシア姫の意思を受け継ぎ、戦う決意を固めた。


高梨 亜優美(たかなし あゆみ)/ヒルダ

和哉の恋人。異世界ではヒルダと名乗り、敵対している。


神埼 省吾(かんざき しょうご)/ダーク将軍

和哉・亜優美の共通の友人。歪んだ嫉妬心から、敵対する。


ユーリス/ジーク/フェルナンデス/ミリア

王宮騎士団長。それぞれが、それぞれの騎士団を率いている。


ラナ

アリシア姫の侍女。和哉に対しては辛辣な接し方をする。


グール伯爵

皇帝ゼロの腹心。闇の帝国の事実上の指揮者。ミリアの実の父。


皇帝ゼロ

闇の帝国の皇帝。強大なエナジーを持つ。エックスの兄。


カイル

アクア王国隠密部隊長。闇の帝国と内通している。


※登場人物詳細

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fanbox post: creator/29593080/post/1260447

・・・・・・・・・・・・・・


アクア王国北方の砦に視察にやってきている

騎士団長ジークは、表情を歪めていたー。


騎士団長はそれぞれ、管轄地域が存在する


ジークが北側

ユーリスが東側

フェルナンデスが西側

ミリアが南側をそれぞれ管轄し、

それぞれの方角に存在する

アクア王国の村や砦などの視察や改善などを行っているー。


その視察任務のために、ジークは北側のグロス砦に

やってきていたのだー。


「---」

隠密部隊長・カイルの言葉を思い出す。


「アクア王国の玉座は、ジーク様ー

 あなたにこそ、ふさわしいー」


「-----」


アリシア姫が偽物ー?

ユーリスやミリアはそのことを知っていながら黙っていたー?


何故だー?


ジークの中に黒い感情が芽生えるー。


アクア王国の最北端に位置するこの場所は、

闇の帝国本拠地が存在する方角に近くー

アクア王国の重要な拠点ー。


ジークは、静かに笑みを浮かべたー。


”王国を守るためにはー

 何をなすべきかー”


ジークは静かに立ち上がるー


「兵士を全員集めよ」


ジークの言葉に、ジーク配下の兵士が「はっ!」と頭を下げるー


そして、集まった兵士全員に告げたー。


「ーーこれより、我々は王宮に向かう」

ジークが高らかに宣言するー


「--これは、アクア王国を守るための、”戦”だー」

とー。


・・・・・・・・・・・・・


夜ー

アクア王国の王宮では、穏やかな時間が流れていたー


「--ジーク殿は、明日夜、王宮に帰還予定です」

宰相のガディウスが和哉に報告するー。


「わかりました」

和哉がアリシア姫として返事をするー。


ジークは昨夜から、アクア王国領北側に存在する

グロス砦の視察に向かっているー。


和哉は、姫としての自分に、

よくも悪くも、慣れてきてしまっていたー。


”俺は、本当は姫じゃない”


だがー

そのことを知っているのは、未だ、ごくわずか。


確かに”本物の姫がもう死んでいる”と知ればー

民衆は大混乱に陥るのだろうし、

王宮内も混乱するのだろうー


けれどー

”ずっと隠す”ことは難しいー


そうも思うー。


闇の帝国側もそのことを知っているー。

いつ、どこから情報が洩れるか分からないー。


ユーリスやミリアも、そのことを懸念していたー。


”俺、これからどうなるんだろうな…”

和哉は廊下を歩きながら、王宮の外に見える星空を見上げるー


本当に元の世界に戻ることはできるのだろうかー。

亜優美を救うことはできるのだろうかー。


そしてー

この世界の平穏を取り戻すことはできるのだろうかー。


「--俺…色々背負いすぎだろ…」

自虐的に笑うと、和哉は離宮の自分の部屋へと向かったー。


・・・・・・・・・・・・・


「----」

騎士団長・フェルナンデスが兵士たちの装備を磨いたり、

兵士たちのやりきれなかった雑用業務を、ひとり、こなしていたー


「--遅くまで、ご苦労なことだな」

背後から声をかけてきたのは、女性騎士団長のミリアだったー


「ミリア殿」

フェルナンデスは、振り返ると、


「今日も美しいー」


「-世辞はいらぬ」

ミリアは淡々とそう告げると、

「--いつもこんなことをしているのか?」と

ミリアが興味深そうに、フェルナンデスのほうを見るー


「---ふっ、ただのきまぐれさ」

フェルナンデスは、自分の横に置いてある薔薇を見つめながら呟くー


「-----」

ミリアは思うー。


フェルナンデスはいつも”自分が貴族だ”と言わんばかりの

偉そうな態度をしていたり、キザな態度が目立つー

兵士を見下すような態度も目立っているー。


だがー。

一方で、裏では、兵士たちのことを誰よりも気遣い、

そして、王宮の手が回っていないような

貧困に苦しむ村を支援している、という”一面”もあるー


「-ーーお前も、私と”同じ”かー。」

ミリアが呟くー


「---同じ?」

フェルナンデスが聞き返すー


フェルナンデスはー

貧困の村出身ー。

”所詮は平民”と王宮の大臣の一部に偏見を抱かれるようなことも多くー

”あえて”貴族然”とした振る舞いを続けているー

貧困の村への支援も、大臣の一部が反発するため、

そんな素振りを一切見せないように、支援を続けているー


ミリアはー

裏切者であるグール伯爵の娘ー

今でもそれを口にする者もいるー。

だからこそ、女を捨て、笑顔を捨てて

”氷の女王”として振舞っているー。


”本当の姿”を表に出せないまま、戦いを続けているー。


だからー

”同じ”なのかもしれないー


「はは、美しいミリア殿と同じなんて

 光栄だよ


 どうかな?今度、お茶でも」


フェルナンデスが薔薇を持ちながら、ミリアを誘うー。


ミリアは「断る」と即答したー


「ーーー」

フェルナンデスは”残念”と苦笑いしながら首を振ったー


「--お前も私もーーーー

 ”ありのまま”に生きられるときが来るといいな」


ミリアはそう呟きながら

フェルナンデスの兵士の武器を手にして

フェルナンデスを無言で手伝い始めるー


フェルナンデスはそんなミリアの様子を見て

少しだけ笑ったー


「--来るさ。きっとー」

闇の帝国との戦いが終わればきっとー

誰もが笑って暮らせるような世の中が来るー。


必ずー。


・・・・・・・・・・・・・・・


「-ーーー」

離宮のテラスでユーリスと和哉が話していたー。


星空を見つめながら、ユーリスが昔話をしているー


「こうして、お前といるとー

 ”昔”を思い出すよー」

ユーリスが月を見上げながら呟くー


「昔?」

和哉が呟くー


「--あぁ。

 昔はよく、こうして、アリシアと二人きりで話してたからな」

ユーリスの言葉に、

和哉は顔を赤らめて「お、俺はアリシア姫じゃないぞ!?」と


「はは、分かってるさ」

ユーリスは、和哉のほうを見ると、再び月を見上げたー


「前も言ったと思うがー

 俺とアリシアは幼馴染でさ、

 小さいころは、よく一緒に遊んだんだー。

 

 あの頃はーー

 まだ、立場の違いなんて、俺もアリシアも分かってなかったからな」


ユーリスは懐かしそうに笑うー


「--大きくなったらアリシアと結婚するー

 なんて、そんなこともよく言ってたよ」

ユーリスは、そこまで呟くと、

少しだけ寂しそうに続けたー


「でもーーーー

 俺とアリシアの”立場”は全然違ったー


 大人になるにつれてー

 そんなこと許されない、ってことも分かったし、

 俺とアリシアの立場の違いを

 嫌というほど痛感させられたよ」


ユーリスは、苦笑いしながら、首を振ったー


大人になればなるほどー

アリシア姫との距離は遠のきー

”位の違い”を痛感させられたー。


ユーリスはやがて、

”自分とアリシアは、生きる世界が違う”ことを理解し、

そして、決意したー


「ーー俺に出来ることは、アリシアを守ることだけー。

 だから、せめてー

 アリシアのことは命に代えても守ろうと、

 そう決意して、騎士団長としてーー

 アリシアをーいや、姫を支えてきたんだ」


ユーリスが笑うー。


姫と騎士団長ー

その間柄になってから、こうして二人で会うようなことは

ほとんどなくなっていたー、

とー。


「---だから…こうしてお前と二人でいると

 思い出すんだー

 昔をー」

ユーリスは、そう言いながら星空を見つめたー。


「----この世界では

 やっぱ、そういうのがあるんだな…」

和哉が呟くー


ユーリスは「あぁ」と呟くー


「”姫”として生まれたアリシアと、

 騎士の息子として生まれた俺ではー

 住む世界も、何もかも、違うからな」


とー。


「---……」


ユーリスは今でもアリシア姫のことが”好き”だったー。


だがー

そんな想いは絶対に許されないー


だから、騎士団長として

せめて、アリシアの身を守り、

アリシアの刃になろうと、そう考えていたー。


「---………」

ユーリスは、本物のアリシア姫が死んでしまったことー

守れなかったことを、強く後悔していたー。


「---ごめんな…」

和哉が呟くー


「--ん?」

ユーリスが和哉のほうを振り返るー。


「---ユーリスの大切な人の姿で……

 こんな未熟なふるまいばっかして…」

和哉が呟くー。


”自分の好きな人に、異世界から来た男がそっくりの姿になっているー”


もし、自分が逆の立場だったらー?


亜優美の姿をした、知らない男が亜優美として振舞っているー

という状況だったらー

やっぱりどこかで、”面白くない”という感情を抱くかもしれないー


「---」

ユーリスは笑ったー。


「--そんなこと、気にするなー

 お前には、本当に感謝している」

ユーリスはそう呟くと、和哉のほうを見て、力強く頷いたー。


「---お前は、俺の友だー。」


ユーリスの言葉に、和哉は、少しだけ照れ臭そうにうなずくー


「---お前がもし、この先、元の世界に帰る時が来てもー

 俺は、お前のことを忘れないー。


 異世界の友としてー」


ユーリスの言葉に、和哉は照れ臭そうに

「--お、俺も、ユーリスのこと、絶対に忘れないよ」

と、笑みを浮かべたー


「---」

ユーリスが少しだけ赤くなって目を逸らすー


「--?」

和哉が不思議そうにしていると、

「--どうも、アリシアが俺に微笑んでいるように

 見えちゃってな…」

と、ユーリスも照れ臭そうに笑ったー。


・・・・・・・・・・・・・


翌朝ー。

王宮の広間は騒然としていたー。


「なんだと?それは確かなのか?」

騎士団長のユーリスが表情を歪める。


「--はっ。

 騎士団長のジーク様が、手勢を率いて

 ”偽りの姫を出せ”と、王宮前に陣取っておられますー」


騎士団長・ジークが、

アクア王国北方の警備に付かせていた

自らの配下の騎士や兵士を集めー

アクア王国の城門前に、武装した状態で、

”偽りの姫を出せ”と要求している、

というのだー。


「--それは、穏やかじゃないな」

騎士団長のフェルナンデスが薔薇を手にしながら言うー。


「--これはいったい…?」

和哉が不安そうな表情でユーリスのほうを見る。

ユーリスは和哉の視線に気づいて首を横に振るー


”理由がわからない”と、でも言いたげな表情だー。


「---ジーク殿は、元々”反姫派”に属しておられましたな」

宰相ローディスの後任として宰相になった

宰相ガディウスが呟くー。


「--後ろ盾となっていたローディス殿が

 命を落としたことで、自暴自棄になった…

 そういうことでしょうな」

宰相ガディウスの言葉に、

女性騎士団長のミリアは「いや…」と呟くー。


「---ジークは、ローディスとは既に決別していたー。

 今更、姫様に反旗を翻す理由はない」

ミリアはそう呟きながらも

”偽りの姫”と言っていることから、

ジークが”今、ここにいるアリシア姫は偽物”だと気づいた可能性が高いー、と

考え、ユーリスのほうを見つめる。


ユーリスは頷くと、

「姫、ここは私とミリアにお任せを」と、和哉に向かって頭を下げたー。


「ええ…お願いします」

和哉はアリシア姫として振舞い、ユーリスたちに言葉を掛けると、

ユーリスとミリアは頭を下げて、王宮の外ー

ジークが待ち構える王宮の正門前へと向かったー。


「--ーーー困ったものですな」

宰相ガディウスが呆れたような笑みを浮かべるー。


「----」

騎士団長のフェルナンデスは、和哉のほうを見つめながらー

少しだけ不安そうな表情を浮かべたー。


「----私も、行きます」

和哉はそう呟くと、王宮の外に向かって歩き始めたー。


騎士団長・ジークと、

自分もちゃんと、話をしなくてはいけないー。


和哉は、その決意を胸に、歩き出したー。


・・・・・・・・・・・


王宮の正門前に、

騎士団長のユーリスとミリアが、

それぞれ配下の騎士たちを連れてやってくるー。


神経質そうな表情を歪めて騎士団長のジークがユーリスたちのほうを見るー。


「--ジーク、このような軍勢を率いて、

 姫様に刃でも向けるつもりか?」

騎士団長のユーリスが言う。


「--アクア王国への、姫様への忠誠心、忘れたのか?!」

女性騎士団長のミリアも叫ぶー。


その言葉に、ジークは笑ったー。


「--姫様に刃?アクア王国への忠誠心?」

ジークが神経質な顔を歪めて、笑みを浮かべるー。


「--貴公たちに、その言葉、そのままそっくり返そうー」

ジークはそう言うと、剣を手に、ユーリスのほうを見つめたー。


「ーーー”本物”の姫様は今、どこにおられるのかな?」

ジークの問い詰めるような言葉ー


やはりー

”アリシア姫が偽物”だと知っているー。


ユーリスは表情を歪めるー


”一体誰から聞いたのかーー”

とー。


和哉が女体化して、アリシア姫の影武者として

振舞っていることを知るのはー

ユーリス自身とミリア、そして世話役のルベールと

侍女のラナ、ミルト族のエックス、そして闇の帝国側の人間だけのはずだ。


そのうちのルベールとエックスは既にこの世にいない。

ユーリスはジークに伝えていないし、

ミリアやラナがジークに伝えるとは思えないー。


”闇の帝国”から聞いたのかー。


「--ーーークク…やはり答えられまい」

ジークはそう言うと、高らかに宣言したー


「--”偽りの姫”をこの手で討ち取り、

 俺が、アクア王国の王になるー」

とー。


「--ジーク…!」

ユーリスがジークを見つめー、険しい表情を浮かべたー。


「--バカな真似はよせ!

 これは、姫の意思でもーーー!」

ユーリスがそう言いかけたその直後、

ジークは剣を抜いて「問答無用!」と叫んだー。


ユーリスも咄嗟に剣を抜くー。

ジークが引き連れていた兵士たちも、一斉に剣を抜くー。


ユーリスとジーク…

騎士団長同士の戦いが始まるー


そしてー

その様子を隠密部隊長のカイルが、凶悪な笑みを浮かべながら見つめていたー


今日ー

王宮は陥落するー


今日がーーー

”破滅の日”だー



㉖へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


今月最初の女体化X異世界転生長編でした~!

終盤戦に突入!の物語をぜひお楽しみくださいネ~


今日もありがとうございました~!

(Fanbox)


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