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4.

武虎に体をつかまれてしまい、狼は腕を上げられず、ガードの姿勢が取れなかった。


困惑する狼を見て、武虎は「もらったぜ!」と言い、勝利を確信した。


やっぱりこいつ、ガチガチのキックボクシングのルールでしか、闘えねえ。

ルール外の状況に対応できないのが、お前の弱点だぜ!


武虎の頭突きを顔面に受けた狼は「うあああああ!」と悲鳴を上げ、痛みで顔を赤らめ涙を流すが、武虎はさらに狼の体をきつく締め上げ、容赦なく何度も何度も顔面を頭突きしたので、狼は鼻血を流しながら痛みに悶えているところに、さらにみぞおちに何発も連続でボディブローを打ち込みまくるので、パンチを受けるごとに「うっ、うっ、うっ!」と声を漏らし意識を飛ばしそうな狼に向かって、最後は腹に向かって痛烈な膝蹴りを喰らわせることで、意識を失った狼はダウンする、という展開を武虎はイメージしていた。


しかし実際は、武虎が頭を振り下ろした瞬間、腕の隙間が一瞬できたことを見逃さなかった狼は、するりと体重を下すように、床の方へ抜け落ちていく。


「あ?」


頭突きを外した武虎に向かって、狼はしゃがんだ姿勢から武虎の顎に向かって、一直線に頭突きを喰らわせる。


ゴッ!

「ぐおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」


激しい痛みに声を上げながら、後ろによろける武虎。


「へえ、頭突きって、こうやるんだな」と言って、狼は自分の痛む頭をおさえながらも、冷静を装い、にやりと口元で笑う。


まずい、こいつがルール無視で闘ってくるんなら、オレ、負けちまうじゃん…。


目を回し、動きの鈍くなっている武虎に、狼の強烈なフックがさく裂!

武虎の頬を強く打ち抜く。


「うごっ…!」


眼が回り、膝ががくがくと揺れる武虎。

続けてボディ、あご、ボディと、連打を浴びる。


「ぐっ、がっ、ぐああっ!」


最後のボディを喰らった瞬間、武虎は口から唾液をまき散らす。


「倒れろ」と狼がつぶやくように言い、体をかがめ、全身の筋肉で撃ち込むアッパーが、武虎に突き刺さる。


「ぐあああああああああああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁ!!」


強烈な一撃に、叫び声を上げながら意識を飛ばした武虎は、リングサイドまで吹き飛ばされる。


ダダン!


リングの上には武虎の体が倒れる音が響いた。


意識を失っている様子の武虎を、息を切らしながら狼は黙って見つめていると、武虎はすぐに意識を取り戻し、顔を上げようとする。


しかし武虎は目が回って、顔を持ち上げることすらできなかった。

けれど、リングサイドを探るように、天井に向かって震えながら腕を伸ばす。


まだ、まだやれるはずだ。

根性見せろよ、オレ!


そう思い、武虎が必死で体を起こそうとした瞬間、自分の顔の上に、足が乗せられる。


「お前の負けだ」と言って、狼は足をぐりぐりと武虎の頬に押し付ける。

「ぐぎぎ、なんだこの足、どけろよ!」と武虎は言い、乗せられた足を、顔を振ってどかそうとする。

しかし、首に力が入らず、全く足をどかすことができなかった。


「黙れ、金髪反則野郎」と言って、狼は足をぐりぐりと武虎の頬に押し付ける。


「いたたたた、くそ、止めろ!」と武虎は叫んだ。


「いい加減、お前の負けだ。もう終わり、終了、ノックアウト。意味が分かるか?」


「ふざけんな。まだオレ、負けてねーし」


それから、ふと、ひらめいたように「あっ、てか、オレの頭に足を乗せんのって、これ反則なんじゃね?」と武虎が聞いた。


「いまさら反則とか関係ねえだろう、金髪反則野郎」と狼は苛立った声で言い、武虎の顔をぐりぐりと踏みつける。


「なんだよ、お前も反則してんじゃねーかよ。さっきも頭突きしたじゃねーかよ」と言って、武虎は必死で足をどかそうとする。


「目には目を、歯には歯をって言葉を知ってるか、金髪反則野郎」と言って、狼は余裕の表情で武虎を見下ろす。


「はあ?芽には芽で、葉が葉?意味わかんねーよ」


武虎の返答を無視し「1,2,3…」と狼がカウントをはじめる。

武虎は焦って頭を起こそうと頑張るものの、結局10カウントまで数えられてしまう。


「お前の負けだ」と言って、狼は足をどかす。


リングに倒れたまま「くそっ、マジかよ…」とつぶやく武虎を残し、狼はリングを降り、グローブを脱いで、タオルを取り、汗を拭う。


「ふう、バカを相手にするのは疲れる」と呟くが、狼の口元は少しだけ笑みが浮かんでいた。


こんなバカ、見たことない。

そう思いながら狼は、テーブルに置かれていたスポーツドリンクを手に取ろうとするが、手が震え、うまくつかめなかった。


自分の手を見つめながら狼は、力を使いきったことを実感する。

あのまま武虎がダウンせず、スタミナで乗り切られたら、もしかしたら状況は変わっていたかもしれない。


すると、リングから起き上がった武虎は、狼のもとへ駆け寄り、振り返る狼の両肩を強くつかんだ。


「おい、なんだよ、これ!」と武虎は声を荒げる。


「なんだよ。まだやろうっていうのか」

狼は厳しい顔つきに戻し、武虎を見つめる。


しかし武虎は「違げえよ!これマジ、すげえ、面白かったんだけれど!」と、目を輝かせ、興奮しながら言った。


「は?」


「オレこれやるぜ、キックボクシングやるし、オレもっと強くなりてーよ」と武虎は言った。


「面白い?でもお前、負けたんだぞ?」と、狼は呆れた顔で言った。


「は?だって、オレケンカめっちゃつえーんだぜ。なのに、全然手も足も出ないじゃん。びっくりしたし、お前マジつえーし、オレもっと強くなりてーし」と言って、突然狼の肩に手を回し、自分の方へ抱き寄せる。


突然首に腕をかけられ狼はびっくりしながら、武虎の方を向く。


武虎は機嫌よく「とにかくお前マジつえーって!正直尊敬するぜ!あれだろ?相当練習してんだろう?」と言うので、狼は「ああ、まあ」と言いながら、照れた表情を隠すために目線をそらす。


「よっしゃ、オレこのジムに入会するぜ。あ、あとオレの名前、武虎な。金髪っていうなよな」


「けれどお前、ジムでは反則は一切できないぞ」


「しねーよ。今からオレ、スポーツマンシップだから。あと、お前じゃなくて、武虎だっつーの」と言って、武虎は狼に向かって指をさし、もう一度、た、け、と、ら、と言った。


「武虎…」


「オレはさ、お前との闘い、楽しかったし、マジで熱かった。久しぶりに燃えたぜ。お前だって、そうなんだろう?」


確かに、胸が燃えるような感覚を、久々に感じたと狼は思った。

いや、それどころか、ここまで燃える感覚は、生まれて初めてだったかもしれない。


そのぐらい高ぶる気持ちが、狼の胸の奥にまだ響いていた。

これほど本気で自分のプライドをかけた闘いは、初めてだ。


「もうオレたちダチになったんだ、また闘おうぜ!」といって、武虎は手を差し出してきた。



「あ、ああ…?」


武虎の手に、狼は一瞬唖然とする。


ダチって、友達ってことか?

いつ友達になったんだ?


「ってことで、よろしくな」と言って、武虎は満面の笑みを見せる。


突然乱入し、反則しまくっておきながら、今は楽しかったと笑顔を見せる目の前の生き物をどのようにとらえればよいのかと狼は困惑する。


けれど、武虎の笑顔を見て、嘘のない奴なんだろうなと狼は思った。


「わかったよ。よろしく、武虎」


そう言って、武虎に差し出された手を、狼は静かに握り返す。


すると、「おうよ」と言って、武虎は笑った。


「でも、次はお前をぶっ倒すぜ!で、このジムで一番最強になんの、オレだから」


「ああ、やってみろよ」と狼は答え、それからふと思い出したように「そういえば武虎は、キックボクシングの試合に出ようとしてこのジムに来たんだよな。なんで試合に出たかったんだ?」と聞いた。


「ああ、試合?あー、なんかオレさ、ケンカ強じゃん。だから、試合出たら勝てるんじゃね?ってダチに言われて、で、試合勝ったら3万くらいくれるっつーから、じゃあ3万ゲットだぜって思ったんだよ」と武虎は言った。


狼は首をかしげながら「ええと、言っている意味がよくわかんないんだけれど」と言った。


「でも、今日のは試合じゃねーし、お前も反則したから、勝負は無効だからな」


「武虎って、自分に相当優しい奴なんだな」と狼は皮肉を漏らす。


すると武虎は「おう、オレはオレに優しいぜ」と言って、親指を立てながら自慢げな顔を見せる。


「なんで自慢げなんだよ」と言いながら、狼は小さく笑う。


その瞬間、ジムのドアが開いた。


二人がドアの方を見ると、コーチが現れて「え、誰?てか、なんでお前ら二人とも顔血だらけで笑ってんの?」と困惑した表情を見せる。


やばい、コーチが戻ってくる前に、武虎を追い払うつもりだったこと、すっかり忘れていた!と狼は思った。


「あ、オレ、今日から入会するつもりの武虎って言います」と空気を読まずに武虎が元気よく挨拶をする。


コーチが「え?ああ、入会?」と困惑している様子に、狼は思わず苦笑いしてしまう。


まずい。とにかく落ち着こう、オレ。

何とかここで、オレ達が勝手に闘っていたことをごまかすことを考えないと。


「そうなんすよ、って言うのもオレたち、今ここで拳で語り合って、分かり合ったっつーか、燃えたっつーか、一瞬でダチになったんすよ」と言って、武虎は狼の肩に腕を回し、ガッツポーズを見せる。


「拳で語り合う?ダチになる??」

困惑するコーチの視線は、ゆっくりと狼に向かってスライドする。


あー、武虎、全部言いやがった。

これは、言い訳不可能。

間違いなく、後でめちゃくちゃ怒られるだろうな、オレたち。


狼は、コーチに怒られても反省の色なく自分の意見を言い返す武虎の姿が見えた。


そして狼は、コーチから思わず目線を外すように、窓の外を見る。


窓の外の、国道の先に広がる海が夕日に照らされて、海面がオレンジ色に輝き、雨はとっくに上がっていたことに気が付いた。




あとがき

最後まで読んで下さり、ありがとうございます!


今月は1か月かけて、狼と武虎の出会いの話を描かせてもらいました。

ファンボックス開始2か月目にして、普通じゃない行動だったと思うのですが、実は今回の物語はすごく書きたかった話だったので、挑戦してしまいました。


というのも、現在は高校3年の時間軸にいる狼と武虎ですが、性質が違う、というか正反対の二人なのにすごく仲良しです。


それで、どうして仲がいいのかというと「拳を通して分かり合う友情」という理由があることを、物語にして明確にしておきたかったんです。


狼も武虎も本質的には一人で生きているタイプです。


しかも、中学三年のこの時点の二人はというと、

狼は自分の世界しか興味なくて、他人に合わせられない孤独な子供だったし、

武虎は、ルールのない世界で他人なんて関係ないという子供でした。


そんな二人が、お互いがお互いの世界を広げてくれる重要な役割であり、足りない部分を埋めてくれる存在になるきっかけになった出会いの話なので、どうしても書きたかった。


そして、全然性質の違う人間同士でも、好きなものをぶつけ合うことで友情って生まれるのだと僕は思っていて、なのでこの二人は闘いのおかげで友情が生まれるし、闘いがなければ友情は生まれませんでした。


そんなひとりずつだった狼と武虎がふたりになった瞬間の物語でしたが、最後までご覧いただき、本当にありがとうございました!


しかし今月はエッチい感じの色合いが薄くなってしまったので、来月は頑張ってエッチな雰囲気が描けるよう意識したいと思います。


それにしても格闘技っていいですね。

体と体で直接ぶつかり合って、気持ちもぶつけ合える感じが、とっても熱い!

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Comments

ミケ空

おおー!お疲れ様でした!最後の笑顔にぴったりの面白い絵とストーリーでした!格闘技の面白さが伝わってくる感じでしたー!

seaside

ミケ空さんに、格闘技の面白さが伝わるって言ってもらえるのは嬉しいです!結局そこを、書きたい気持ちが強かったです。ありがとうございます!

daipin

最後の2人の表情に「キュンッ!」ときてしまいました。何気にコーチが初めて喋りましたね。

seaside

daipingさんより、キュンいただきました!嬉しい! キュンに至るための二人のバトルだったんです。

Anonymous

im really happy to know this story. :D such a beautiful friendship from fight

seaside

I am glad to have you compliment me. I hope you enjoy the story of their friendship 🤗

Anonymous

i am happy for them. will they have intimate relationship as well?