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 繁華街の中心からいくらか外れた場所、足下もおぼつかなくなるような薄暗い路地の終わりに、その店が入居するビルはある。路地に面した一階は閉店したスナックで、彼が目指しているのは二階だった。狭くて急な階段を上って表札も何もないドアを開けると、変わらない甘い匂いが鼻を突く。

「いらっしゃいませ~幼育園にようこそぉ~」

 女性だと思われる、気の抜けた歓迎の挨拶が目の前の幅三十センチメートルほどの小窓から聞こえてきた。パチンコの景品交換所程度の狭い空間は出入り口と両脇の合計三枚のドアと、小窓の前に机を置いただけの粗末なカウンターで全面が占められている。

「会員証をお願いしますぅ~」

 彼は財布から黒いカードを出して小窓に差し出す。カードを受け取られて、代わりにA4サイズの申込書が送り返された。

「ご記入のほどを~お願いします~」

 机には付けペンと紺色のインク壺が置かれている。彼は腰を曲げて必要事項を埋める。時間は12時間パックコースで、コースはこっこ組を選んだ。最後に頭から記入にミスがないか確認してから小窓の向こう側に渡した。

「申し訳ありません~こっこ組をご希望ですが~ご用意できなくてぇ~男の子にするか~女の子でもたまご組やひよこ組なら今すぐご案内可能なんですが~」

 わざわざ男性を選ぶ余地は彼になかった。たまご組やひよこ組もまた彼が好き好んで選ぶものではなかった。彼はここに何度も来ているが、気恥ずかしさがそのたびに勝って選ぶことができなかった選択肢だ。

 しかし向こうから提示されたことで彼も揺らいだ。

「じゃあ、えっと……ひよこ組で……」

「かしこまりました~ではひよこ組にぃ~変更します~」

 右のドアが解錠される音が小さく響いた。ドアノブに手をかけて押し開けると、先にまたドアがある廊下に入った。2本の蛍光灯が照らすコンクリート打ちっ放しの殺風景な場所で、通る途中には物が入ったカゴが置かれている。甘い匂いは強まったが、その中に別の臭いが混ざった。

「それではお楽しみください~」

 見送られ、彼は入ってドアを閉めた。何をすべきなのかは既に分かっていた。仕事着であるスーツを脱いで全裸になり、プラスチック製のチープなカゴに入っていた物とスーツやカバンを入れ替えた。

 彼が持ち上げたそれは生々しい弾力と共に人の形に広がった。穏やかに目を閉じた顔は眠っているようで、こんな異様な状態でも彼は可愛いと感じた。頭には茶がかった黒髪がほどよい長さまで伸びていて、シルクのようにいつまでも撫でていたい触り心地をしていた。

 人間から骨と内臓を取り除いて皮だけにしたならこんな姿形になってしまうだろう。うなじから腰椎のところまで切れ目が入っていて、彼は中を開くことができた。中は外側とは違って薄ピンク色一色に染められていて、そのうえうっすらと湿り気を帯びている。

 彼女の身長は一メートルに達するかどうかだった。だから普通に考えるなら、この人間の皮と二倍近くの身長差がある成人男性の体は収まらないと考えるべきだ。しかし彼はためらいなく左足を切れ目から中に差し込んだ。

 皮は内側から膨らむ様子を見せたが、適正な体型が崩れる以上には決して膨らまなかった。足の長さからして足りないはずなのに、彼の左脚は彼女の左脚と完全にぴったり一致した。短くなってしまった左脚を庇うように身をかがめて、右足も同じように挿入する。

 そうして両足の長さが揃ってしまえば残りはワイシャツに袖を通すような簡単さで、頭を含めて全身を幼女の形に収めた。感じるのは全身で均一な圧迫感だけで、苦痛はない上に間もなく和らぐと彼は知っていた。

 背中にあった切れ目は傷が塞がるようになくなって、すべすべの陰り一つもない背中になった。彼は中に閉じ込められ、一人の幼女に成り変わった。終了時間になったら皮の中から出してもらえると信じているから今や恐怖感はない。それどころか、これから起きることに期待を高めていた。

 次のドアの前に立つとドアノブを見上げなければならなくなり、いやでも身長が低くなったことを認識しなくてはならない。皮下脂肪が増えた四肢はもっちりして短くなり、最初は距離感を掴めずに空振った。

 いくぶんか苦労してドアを開けると雰囲気は一転して明るい空間に出た。内装もパステルカラーのビビッドなものに変わる。そして乳幼児向けのキャラクターがプリントされたエプロンを着た女性に出会った。胸元の名札にはひらがなで大きく『みよこ』と書かれている。

「ひよこ組のマコちゃんだよね? よろしくね!」

 見かけに見合った話し方をされると、恥ずかしくなって思わずマコは下を向いた。いつも始まりはそうで、これも慣れないことの1つだ。彼女はマコの方を頭からつま先まで見て、にっこりと笑った。

「それじゃあお着替えしましょうか」

 マコにショーツが渡された。前と比べると、まずキャラクターのプリントが目立った。幼さを強調しているようで、自分がそれを着るのに気後れした。

「あれあれ? 一人でお着替え難しいかな~?」

 戸惑っていると声をかけられた。他人に着替えさせられるというところまで防衛戦を下げるつもりはなかったから、慌てて脚を通した。続くアンダーもトップスも、彼にはずっと幼すぎる装いだ。生足が露出する半ズボンなんて夏場でも自宅とその近辺以外では穿かないだろう。

 次に靴下が渡され、普段通り立ったまま履こうとして転んでしまった。何が起こったのか最初はマコにも分からなかった。

「大丈夫? 履かせてあげるね」

 近くの台に座らされ、なされるがままに両足に布地が被せられる。髪の毛には櫛を通されて整えられて出る準備は整えられた。手を引かれて立ち上がって、目の前に彼女の顔が急接近する。目と目が合って、先にマコが耐えられなくなってそっぽを向いた。

「良さそうだね。お口、あーんってして?」

 言われた通りにマコは口を開けて上を向いた。どこからか褐色瓶が取り出され、中に入っている黄色のねっとりとした液体をスポイトで口に垂らされる。味は甘く、そしてほんのりと酸っぱかった。いつもとはシロップの色が違っていたが、彼がこの先へ進むのに毎回行われていることだった。

「はい、お手々つかんで」

 マコは手を引かれて、次のドアをくぐった。もっと広々とした空間に繋がっていて、自然光が差し込んでいるのかと思うほどに明るさと開放感は増した。そして無音だったのが、子どもたちが遊ぶ黄色い声がそこかしこから聞こえてくる。

「上履きと遊び着をしようね」

 靴下だけだったのが上履きを履かせられ、名札が付いたピンク色のスモックを被せるように着せられる。彼女に握られていた手は放されて、ひよこ組のマコは自由になった。早速、同じ格好をした他の園児から声をかけられて遊びに混ざることができた。

 この幼育園と呼ばれる店はそういう場所だった。誰でも義務教育の前に戻って、その頃に相応のことができるようになる。男性が男児に、女性が女児になる必要はなく、なりたい自分を心配なく自由に選ぶことができる。

 他の園児もきっと彼と同じように成り変わっているのだろうが、他の園児からは個人が特定されないようになっているから誰も気にしない。この空間で外のことを持ち出すのは雰囲気を壊すだけでナンセンスだ。

 子どもだから遊びはシンプルなものだ。自由な遊び時間なら鬼ごっこやブロック、たまに保育士の先生が呼びかけて集まってアニメを見たり、お遊戯会やお絵かきをする。

 子どもがやるようなそれを、元とはいえ成人した人間がするのには心理的抵抗感がある。しかし恥のような感情は最初の三十分だけで、それを過ぎれば姿形に見合った無邪気さで没頭することができる。

 もっと言えば、過去を後悔するといった複雑ななことを考えられるような思考を保つことができない。その霞がかかった頭が、考えすぎてストレスが溜まりがちな現代人には良いガス抜きになる面もあった。

 ひよこ組になった今回はいつもより年齢が幼いからなのか、マコは過ぎる時間も考えずに園内を駆け回ることがでした。しばらくそうしていると、保育士からひよこ組に向けて声をかけられた。

「お昼寝の時間だよー」

 こっこ組にはない時間だった。ひよこ組に該当する園児はみんな呼びかけた先生の元に集まり、ブランケットを受け取ってお昼寝ルームと書かれている部屋に入った。もちろん、園児の中には遊びに夢中になって声が届かない子もいる。直接呼んで応じるなら可愛いもので、たまにグズってしまう子もいた。

「おやすみできない子はカラスに連れて行かれちゃうよ~」

 そんなときに保育士が言うのは決まってこれだった。寓話じみたこれを言われると、まるで魔法のように指示に応じてくれる。どうしてカラスなのかはマコには分からないことだった。

 敷かれた布団の上に、スモックを脱がされたひよこ組の園児が寝かせられる。マコも同じように布団の上に転がってブランケットを被る。最初は眠くともなんともなかったのに、少しも経たないうちにマコは穏やかな寝息を立て始めた。

 そしてマコは夢を見た。水着を着て、太陽が燦々と照りつける屋外のプールで友達と遊んでいる夢だった。幼育園にそんな設備はないことを思い出せずに、水を掛けあったり水鉄砲を使っていた。

「――マコちゃん、マコちゃん起きて」

 楽しい夢は不意に終わりを告げた。肩口を優しく叩かれて眠りから引き戻される。しばらく呆けた頭のままだったが、股ぐらの妙な冷たさで一気に覚醒させられた。ブランケットを剥がすと、見るも見事に黄色を帯びたシミが広がっていた。

「あー! マコちゃん、おねしょしてるー!」

 大きく派手に動いたせいで周りの園児の注目を集め、その園児の大きな声でもっと多くの目がマコに集まった。失敗が同じ園児に知られて、マコは自分の顔が火照るのを感じた。

「こらっ! いじわるしちゃだめでしょ? マコちゃん、大丈夫だからね。失敗は誰でもするんだから」

 幼育園では楽しいこと楽しいと、悲しいことを悲しいと素直に感じて表明することが許される。感情を堪えることが難しくなっていて、恥ずかしさの後の悔しさのような気持ちにマコは押し負けた。

 泣き声が響いて、囲むように居た園児たちは一斉に退散した。保育士は何ら戸惑うことなくマコを旨に抱き留めてあやした。マコの顔に柔らかい感触が伝わった。

「大丈夫。心配しないで。マコちゃんは何にも悪くないんだよ」

 背中をさすられてしばらく経てば涙は止まり、目頭の腫れぼったさだけが残った。漏らした液体はすっかり冷え切って、マコはくしゃみをしてしまった。

「あらあら。風邪を引かないうちにお着替えしましょうか」

 遊び場から離れて奥まった場所にある別室に連れて行かれる。園児たちから離れて静かな場所だった。

「それじゃあ脱ぎ脱ぎしましょうね」

 自分から脱ぐよりも早く、保育士はマコの汚れた服を脱がせてしまう。ズボンとショーツ以外はなんとか無事に済んだ。

 代わりに同じような服が渡される思っていたら、出てきたのは吊りスカートと紙でできたから分厚い下着だった。

「せんせえ、これって」

「マコちゃんは初めてだったかな? おむつさんだよー」

 失敗したのだから断ることは難しかった。理由付けはマコには難しいことで、ひたすらに嫌と主張するのみだった。

「やっぱり嫌かなあ? でも、これはマコちゃんを守ってくれるんだよ」

 優しくたしなめるように保育士は言う。オムツを穿くなんてただひたすらに悪いことだと思っていたのに、氷が溶けるように嫌悪感は消えていく。

「それに、実はね、ひよこ組はみーんなおむつしてるの。マコちゃんだけじゃないよ」

 自分だけではないというひと言でマコは線を越えることができた。オムツを穿くという事実に比べてしまえば、保育士の手で着せられるなんて大したことではなかった。

 シートの上で寝かせられるとシートでおしっこで汚れた部分を拭き取り、かぶれ予防に懐かしい香りがするベビーパウダーをはたかれる。そして瞬きをする間とも言えるような早業でパンツタイプのオムツがマコの両足を通った。

 立つと普通のショーツとの違いを嫌でもマコは感じた。重さと厚さからして当然だが、蟻の門渡りをふかふかに包むそれを意識しなくてはならなかった。

 オムツの上に着せられた吊りスカートは完全に隠すのには役に立ちそうもなく、他の園児に見られないような振る舞いを強制するものだった。

「なんでスカートなのぉ……」

「おむつ交換のためよ。似合ってるし、かわいいねー」

 褒められてしまうと、それだけでマコは色々と許してしまった。再びスモックを着せられると保育士に連れられる。その途中でマコの足が止まった。

「せんせえ、このしたってなあに」

 いつもは気にしない階段がマコには気になった。上には発表会のときなどで行ったことがあるが、下には一度も行ったことがない。

「からす組のお部屋だよ。わるいこはあそこにカラスが連れて行っちゃうんだ」

 保育士は表情を変えずに行った。今まで空想の話だと思っていたカラスの話が、マコのなかで急に現実味を帯びてきた。その瞬間に妙にとげとげしい恐怖が生まれ、その場から離れるようにマコは一歩を踏み出す。

 他の園児と合流し、さっきの出来事をかき消すように遊びに混ざった。また自分を忘れるくらい夢中になっていたが、尿意で我に返った。

 オムツを穿いているとはいえ、自分からその中にする勇気はなかった。トイレに行くことを思いついたのは尿意が強くなってからだった。

 ただトイレに行けば良いはずなのに、今のマコにはトイレがどこにあるのか思い出せなかった。こっこ組でいる間は平気だったのに、今は全く思い出せなくなっていた。

「せ、せんせえ、しっこ……」

 堪えきれなくなってマコは近くの保育士に話した。保育士は優しく微笑み、マコの手を掴んでトイレに連れ立った。

 一歩を踏み出す度に下腹部の破裂しそうな水風船が揺さぶられた。園児たちの集まりから離れると安心してしまったのか、切迫感はより増した。

「まだ大丈夫?」

 ひと思いにトイレに行けばいいのに、保育士は立ち止まってマコに尋ねる。それであらゆる歯車がかみ合わなくなった。

「マコちゃん?」

「でちゃった……」

 消え入りそうな声でマコは答えた。一度流れ出たものを戻すことも、止めることすらままならなかった。吸収が遅れた分が股ぐらを伝って、お尻の方に流れて生暖かさが広がる。

 マコは恐る恐る、スカートに手をかけてめくり上げる。おしっこが出るところを示すかのように、縦に走る三本の黄色い線は青色に変色していた。オムツの中におしっこしてしまったことを周囲に示す、これ以上なく恥ずかしいサインだった。反射的にマコは手を放した。

「せんせえ……」

 涙声になってマコは保育士を見上げた。

「気にしないで。おむつにできたね。えらい、えらい」

 保育士の口から出てきたのは、予想に反してオムツにおしっこをすることを肯定するかのような言葉だった。出かけだったマコの涙も引っ込んでしまった。

「おむつの中におしっこして、いいの?」

「いいんだよ。だって、おむつはそのためにあるんだから。こうやってマコちゃんを守ってくれたんだよ」

 保育士の手でスカートの裾を上げられてオムツが完全に露わになった。恥ずかしい感情は消え去りはしないが、すこし前までとは違ってオムツに対して頼もしさを感じていた。

「がんばったおむつさんにさよならして、新しいおむつさんにこんにちはしよっか」

 トイレではなく、別室に連れられて再びシートの上に寝かせられる。オムツの両脇を保育士は引き裂いて、無毛の秘所を明らかにする。マコの鼻にもアンモニア臭が届いて、甘い匂いの後ろに潜む臭いに初めて気がついた。

 両足を持たれて汚れたオムツを取り除かれた後は、初めての時と同じようにシートで拭かれてベビーパウダーをまぶされ新しいオムツが両足を通る。ギャザーは太ももを優しく撫で、ふかふかの柔らかいライナーががっしりと蟻の門渡りをホールドした。

 ジメジメ湿ったオムツと比較するとカラカラに乾いた新品のオムツはずっと心地よいものだった。罪悪感といったほの暗い感情は汚れたオムツに染みこんでマコから取り除かれてしまった。

 それからマコは保育士をトイレに呼ぶことはなくなった。遊びに夢中になっている間に、ふと気がつく股の冷たさでオムツ交換をお願いするだけになった。

「マコちゃん、からす組のお友達と会ってみたい?」

 何度目かも分からないオムツ交換が終わった後に保育士から尋ねられた。特に深くは考えないでマコは頷いた。新しいお友達に会えるとか、その程度しか考えられなかった。

「分かった。ユミちゃん、こっちに来てくれるかな」

 その名前にマコは鬼ごっこを思い出した。ひよこ組のマコよりも体が大きいこっこ組なのに、鬼ごっこでいつも鬼になってしまっている子だった。

 ユミと呼ばれた女児は遊びの中心から離れ、マコの前に立った。腰から下を隠せるワンピースタイプのスモックを着ている他は、他のこっこ組の園児との差は分からない。

「それじゃあユミちゃん、マコちゃんの前でスモックを脱いであげてね」

 ユミは保育士の方を見た。スモックは遊びで汚れないように普段着の上に着ているだけなのに、どうして迷うのかマコには分からなかった。

「早くしなさい。早くしないとお仕置きを増やしますよ」

 彼が保育士のそんな口調を耳にするのは初めてだった。脅されたユミはおずおずと桃色のスモックを脱いだ。その下に、およそ服と呼べる物は存在しなかった。

 何かを着ていないという訳ではない。ただ布でできているものはなく、ゴムと革が金属で繋がった衣装を着ている。肌に一番近いところには黒いゴムのレオタードを着ているが、それは肝心な所を隠していない。レオタードの胸に開いた二つの穴からは親指の先くらい大きい乳首が露出している。

 両方の乳首に馬のひづめの形をした金具がぶら下がる。挟んで固定するような生やさしさはなく、金属の棒が無慈悲に肉を貫くピアスだった。

 右の乳首ピアスには名札が下げられていた。名札自体も普通とは違ってピンク色に作られていて、『からす組』の下に『ユミ』と刻まれている。

 胸とは違って局部はがっちり隠されていたが、その方法も異常だった。ショーツでもなく短パンでもなく、こっこ組なのにオムツを穿かされている。マコが使っているような可愛いプリントがされた使い捨てタイプではなく、レオタードと同じ素材でショッキングピンクのオムツカバーだ。

 マコがそれをオムツであると分かったのは、取り替えるためのホックと両の太ももを押しのける程に分厚くモコモコの膨らみからだ。歩くのにも難しさを伴いそうで、いつもユミが鬼ごっこの鬼になってしまうことがマコにも理解できた。

 オムツカバーに交換のためのホックがあるとはいえ、交換は予定されていないようだった。仕上げとばかりに体を締め上げる革製のハーネスがオムツを脱げなくしていた。それだけでなく、ハーネスはユミの慎ましいはずの胸を絞り出して強調している。

「姿勢!」

 手で露出部分を隠そうとしたユミを保育士が注意した。跳ねるような勢いで手は耳の後ろに下がり、オムツを強調するかのように腰を突き出した。

「ママが迎えに来たみたい。帰ろうね、マコちゃん」

 見てはいけないはずなのにマコは目をそらせず、保育士に声をかけられてやっと意識を他に向けることができた。ママが迎えに来た、とはこの園で過ごせる時間が過ぎたことを意味している。

 スーツを着た女性に連れられて幼育園を出て、来たときと同じ殺風景な廊下でママと別れると背中に裂け目を感じた。全裸になって背中を曲げると、背中のところから抜け出すことができた。

 元の成人男性の姿に戻ると近くのカゴに目をやった。中には預けてあったカバンとスーツが入っていた。ワイシャツと下着に関しては洗濯が済まされていて、幼育園の中に似た香りがした。

 身支度を済ませて次のドアに進むと、小窓と机とドアしかない部屋に戻ってきた。

「お疲れ様でした。料金はこの通りです」

 受付が交代したのか小窓から聞こえる声や調子は変わっていた。トレイの領収書の額面通りに料金を置いて、彼はその場を離れた。日差しはすっかり高くなっていて、路地から出ると人波に飲み込まれた。

 彼はふと路地の方を振り向いた。終わり際に会ったユミの姿がどうしても彼の脳裏から離れなかった。それを振り払うように彼は足早に元の日常に戻った。

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